【歴メシを愉しむ(115)】「するめ天というもの」

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.09.09

新聞記事に「コロナ禍の中で溜まるストレスを発散するため、“噛みたい”というニーズがある」と出ていた。その記事によると、旅行や行楽、遠足などが自粛されたため、外出先で食べることが多いキャンデーの売上げが減少はしたが、モチモチ噛むタイプのものは健闘しているということであった。

ストレス発散のために“噛む”という行為、ふむ、いわれてみればあるなと共感した。

 

今“噛みたい”ものは…

私の場合、この状況下に“噛みたい”ものは何であろう?と考えた時、すぐに思い浮かんだのが「するめの天ぷら」である。

するめの天ぷらは、さきいかに天ぷら衣をつけて揚げたもので、マヨネーズと一味唐辛子をチョンチョンとつけて食べると大変に旨い。

お酒のお供にぴったりのするめの天ぷらは、噛みたい欲求も満たしてくれるし、何よりもお酒が止まらない美味である。大らかにお酒を飲むこと自体 ストレス発散にもなるので、カシカシ・クピクピが止まらないこの組み合わせは一石二鳥だ。

大阪では居酒屋メニューの定番であり、私が初回オーダーの際に必ず注文するアテだが、人づてに聞いたところによると、東京の居酒屋ではあまり見かけないらしい。ゆえに東京に移転した大阪人の中には、するめ天が恋しくなった時は家で作ったり、東京の人に振る舞うと、「何これ?美味しい~!」となるそうな。

 

縁起物のするめ

するめは、結納や内祝いなど慶事のお供えものの一つで、祝儀では、「寿留女」の字を当てて書く。「寿」は長寿や幸福、「留」は嫁ぎ先に留まる、「女」は良妻の意味だとされている。さらに保存食として長持ちすることから、食べものに困らないように、あるいは幸福が持続するという説や、お金のことを「お足(あし)」といったことから、足の多いいかは縁起物とされたという説がある。

江戸時代には、「するめ」の「する」が、「お金をする(使い果たす)」という意味があることから、縁起を担いで「当たりめ」とも呼ばれるようになったという。

一見、ペロンと薄っぺらいするめであるが、なかなかに深い意味合いがあるものだ。

 

懐かしの剣先いかのするめ天

思えば、幼い頃からするめの天ぷらを食べていた。海産物を商っていた実家では、剣先いかとするめいか2種類のするめを売っており、値段は剣先するめの方が高かった。江戸時代には外国へ輸出されていたするめは、「一番するめ」が剣先いかとやりいか、「二番するめ」がするめいか、と当時から等級が決められていたという。お酒も飲まないのに、アテ系の食べものに目が無かった私が好んだのは、一番するめの剣先いかであった。もちろん江戸時代からの等級などは知るべくも無いが、おチビながらに味の濃さ、緻密さのようなものが、剣先いかの方が断然旨いと感じたのだった。

まるで猫のように素早い動きで店先から剣先するめを確保し、嬉嬉として母に渡し、天ぷらにしてもらう。水につけてふやかしたするめは、水気を取って細く切り、衣をつけて揚げるのだ。現在居酒屋で出てくるさきいかの天ぷらよりもっと食感は硬いが、カシカシ・クチャクチャと噛めば噛むほど素晴らしい旨みが滲み出てくる。それは、こめかみが痛くなっても延々と噛んでいたい味わいだった。

秋風が吹くようになったら、長く味わっていない懐かしの剣先するめを使ったするめ天を作ってみたいと思う。

その前に、忌々しい禍が収まって、居酒屋でてんこ盛りのするめ天を囲み、友人たちと一杯やれる日を夢見ている。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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編集部
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