先日、蒸し暑い梅雨時の食欲アップに、マイ・ソウルフードの一つである紅しょうが天を買って、冷えたビールのアテに、ご飯のおかずにと、存分に味わった。
幼い頃から、揚げ物専門店やスーパー、市場の惣菜売場で普通に売っている紅しょうが天を食べていたので、大人になってから、この天ぷらが大阪にしか無い(現在では関西エリアにもある)いうことを知ってショックを受けた。
大阪人のもったいない精神が詰まった美味
ここでいう紅しょうが天とは、刻んだ紅しょうが入りの練り天(関西以外でいう「さつま揚げ」)のことではなく、大きな紅しょうがを薄めに切り、天ぷら衣を付けて揚げたもの。昭和15年に織田作之助が大阪の下町を描いた小説『夫婦善哉(めおとぜんざい)』の冒頭にも登場する。
紅しょうがの赤い色は、黄色の衣から透けて見えるほどで、その赤さを大阪弁で表現すると、「えげつない赤さ」ではあるが、それがまた食欲をそそってくれるのである。
しかし、関西以外の人々が初めて紅しょうが天を見た時、珍しさに加え、その赤色に驚き、毒々しささえ覚えてたじろぐ人もいると聞く。来阪の折、小説の舞台でもあり、今や観光スポットとしても人気の黒門市場に古くからある天ぷら屋さんで、紅しょうが天に出合った人も多いのではないだろうか。
この紅しょうが天、大阪人のもったいない精神から生まれたのだという。昔から梅干しを作る際に紫蘇の葉を入れて漬けると梅酢が残る。その余った梅酢がもったいないので、そこにしょうがを漬け込み、保存食である紅しょうがを作ったのだという。刻んでご飯にのせたり、寿司(特にばら寿司)に添えたり、ご存知、大阪の粉モンであるお好み焼きやたこ焼きに入れるなど活用し、さらには、衣をつけて天ぷらにし、魚のすり身と混ぜ合わせて揚げる練り天などの惣菜としてきたのだ。
紅しょうが天にはウスターソース
紅しょうが天は揚げたても無論美味しいが、冷えたものもまた旨い。そして、大阪人はウスターソースをかけて食べる。これが一番、よく合うのだ。
ちなみに大阪では、紅しょうが天は串カツ屋にもある。当然 衣はパン粉となるのだが、お品書きにも普通に、「紅しょうが」と書かれている。毎度、串カツ(大阪では牛肉の串カツのこと)、キス、イカ、うずらなどの合間に注文する必須串である。立ち飲み屋や居酒屋でも定番メニューとして置いている店も多い。
パリパリとした衣の脂のコクに包まれた酸っぱ辛さが、お酒によく合う。
ああ、やはり私は紅しょうが好きの生粋の大阪人。こうして書いているだけで、また食べたくなってしまった。今夜は紅しょうが天で一杯といこう。
歳時記×食文化研究所
北野 智子