【歴メシを愉しむ(18)】
初物七十五日~秋の走りの美味で寿命を延ばそう

カテゴリー:食情報 投稿日:2019.08.28

初物を食べ続けると不死身になれる?

旧暦二十四節気の「処暑」(8月23日~9月7日)を迎え、息も絶え絶えになりそうな酷暑も少しやわらぎ、一息つける頃を迎えた。

夏の食欲不振とは縁がなかった私でも、今夏の後半はさすがに油物や肉類は口にできず、もっぱら野菜ばかりを食べていた。そのおかげで精進料理のレパートリーが増え、調理や食事の間のみ、にわか禅僧気取りで楽しんでいた。

精進料理を日々食べ続けていると、心身が清々しくなるようで爽快である。

と言いながら、そろそろ暑さもおさまり始めると、秋の食材が気になってくるから現金なものだ。

 

昔から日本には、「初物七十五日」ということわざがあり、「初物を食べると寿命が七十五日延びる」とされ、初物を珍重し、大いに食してきた。「初物」とは、「その季節の最初にとれた魚・青果・穀物のこと」で、「その季節にとれた食材が一番美味しくて最盛期」である「旬」が到来する前で、「走り」ともいわれる。

日本人がこうした初物をいつから珍重するようになったのかは定かではないが、江戸時代前期の寛永7年(1630)、幕府御膳所御台所人が記した『魚鳥野菜乾物時節記』には、初物が月別に記載してあり、こうした風潮はこの頃からあったようだ。

 

ところで気になるのが、初物を食べると、なぜ寿命が延びる期間が七十五日という中途半端な日数だったのだろう? 日本の一つの季節は三カ月なので、九十日でもよかったのではあるまいか?そういえば、「人の噂も七十五日」ということわざもあり、こちらも同じ日数である。一説には、一年を二十四の季節の区分に分ける旧暦二十四節気では、一つの節気がおよそ十五日間で、七十五日間というと、五つ分の節気であるため、季節も代わり、新しい状況になると期待されたからとか。

このように毎年七十五日ごとに初物を次々と食べ続ければ、永遠に寿命が延び続けることとなり、不死身になれるのではないかと思うのだが…。

 

微笑ましい江戸っ子の初鰹狂騒曲

中でも江戸っ子の初物好きはつとに有名で、代表的な初物は青葉の季節の初鰹。

一尾の値段が三両でも競うように購入したという。現代のお金に換算すると、二十万円以上もしたというから驚きだ。俗に「女房を質に入れても初鰹を買う」といわれているが、それではとても買えなかっただろうと思うが、見栄っ張りで新しいもの好き、「通」「粋」を大事にした江戸っ子気質がよく表れていて愉快である。

 

大阪人は初物より旬のもん

この時代、大阪ではこうした風潮は全くみられなかったという。安政期(1854~60)頃の随筆『浪華の風』には、大坂では初鰹を尊ぶことはなく、鰹は秋の食べもので、刺身にする習慣もないと記されているそうで、大阪人としては納得できる。

昔から大阪では、季節の初物・走りの物より、「旬のもん」「出盛りのもん」を大事にする。旬を迎えた食べものは一番味がのっていて、しかも価格は安いという魅力があり、こちらも大阪人気質が表れていると思う。

 

この秋から「プラス寿命七十五日ワープ」に挑戦

秋の初物といえば、筆頭はやはり松茸であろう。「香り松茸、味しめじ」といわれ、山の香まで連れてくる得も言われぬ独特の芳香、他に代え難いその食感と味わい…。

しかし、国産松茸はあまりにも値段が高いので、茸類にすっぱりと変更し、大阪人らしく秋の鰹である戻り鰹に秋刀魚、秋味、秋鯖、秋かます、秋茄子、里芋、紫ずきん…そうそう、これら秋の美味をさらに美味しくしてくれる秋の日本酒・冷やおろしも必須である。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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編集部
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