♪春が来ぃた~、春が来ぃた~♪…と、今年は手放しでは喜べないのが、なんとも悔しいことだ。
毎年この時季には、好物のサンドイッチを提げて、山野へ花を愛でに、公園へピクニックにと、あちこち出かけて行く。その名前の響きだけで心が弾むサンドイッチには、春が一番似合うと思っているからである。
現在の状況下ではお出かけは無理としても、サンドイッチに一番似合う季節が訪れているというのに、何もせずおめおめと引き下がることはない…ということで、「今春の、お家で楽しむ美味しいシリーズ」と題して、「巣ごもり花見」に続く第2弾・「お家ピクニックのサンドイッチ」を楽しむことにする。
サンドイッチの起こりは「パンと肉」
サンドイッチの起こりについて通説では、イギリスのケント州東部にある港町サンドイッチの領主・サンドイッチ伯4世ジョン・モンターギュ(1718~1792)が、トランプの賭け勝負を中断せずに食事ができるよう考案したものといわれている。この時食べたのが、2枚の薄切りパンに冷製の肉を挟んだものとされていて、その肉はイギリスの伝統料理・ローストビーフだったという。これ以前にもパンと食材を組み合わせたものはあり、古い書物には「Bread and Meat(パンと肉)」と記された名も無い食べもの。それは、わざわざ作るものではなく、普段食べるパンに残り物の冷えた肉を挟んで食べるという、日常の中で生まれたものだったという。
日本で生まれたカツサンドとフルーツサンド
日本にサンドイッチが入ってきたのは19世紀末とされている。明確な資料は無いが、『日本の食文化史年表』(江原絢子・東四柳祥子編/吉川弘文館)によると、一番古いものに、1893(明治26)年11月4日の読売に、「東京神田の食堂の衛生食料サンドイツ(サンドイッチ)の広告掲載.1食4銭5厘」とある。
誰もが好きで、飲んだ後のシメにも美味しいカツサンドは日本生まれ。その具材である日本三大洋食の一つ・とんかつは、1929(昭和4)年に御徒町のポンチ軒で誕生したとされている。その6年後の1935(昭和10)年に、上野のとんかつ店・井泉の女将が「カツサンド」を発案したそうな。当時、この店をよく利用していた花柳界の芸者衆の口紅が取れずに食べられるようにと、特注の小さなパンで柔らかいとんかつを挟んでいたという。
また春に最も似合う、苺たっぷり、フワフワ生クリームのフルーツサンドも日本発祥とされていて、大正から昭和の初めにかけてすでに誕生していたらしい。その頃の果物屋が開いたハイカラなフルーツパーラーで、高級品だった果物をパンに挟んで出したのが始まりだとか。
ウキウキお家ピクニックのサンドイッチ
私は、お弁当を食べるのはもちろん、作るのも好きである。仕事で外へ出ない日でも、朝作っておいて、お昼に家で食べるのも大好きなのだ。文筆作業が多いので、パソコンに向かっている間も、お弁当のことが気になって仕方ない…という食いしん坊なのである。ゆえに現在の状況でなくとも、春にはよく「お家ピクニックのサンドイッチ」をやって楽しんでいる。
自分の勝手気ままに、好きなパンに好きな具材をあれこれ挟んだサンドイッチを作ったら、外へ出かけなくても、ランチボックスに詰めたり、お洒落なペーパーナプキンに包んだりすると気分満点、ウキウキしてくる。コーヒーや紅茶を淹れて、水筒にトプトプ。昼以降に仕事が無い日は、キンと冷やした白かロゼのワインをコポコポ。これで「お家ピクニック」のスタンバイはOK。
ほかにサンドイッチに似合う小道具があるとさらに嬉しい。私の場合、海外のどこか知らない街を彷徨えるような、旅の香りがするような詩集なんぞがサンドイッチの傍らにあると、まるで絵の中にいるような気分になれる。
ベランダから春の陽が射し込むテーブルに置かれた「お家ピクニックのサンドイッチ」セット…ああ、やっぱり今日も昼までは待ち切れず、11時には「いただきます!」となるのであろうか。(笑)
歳時記×食文化研究所
北野智子