【歴メシを愉しむ(36)】
寒の美味~江戸時代のオツな一品「粕漬卵」

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.01.29

1年で最も寒い時季とされる「寒」である。正月明け6日の小寒が「寒の入り」、大寒(1月20日)を経て、立春前日(2月3日節分)までの間で、立春当日に「寒明け」となる。

 

寒の謂われや習わしあれこれ

様々にある寒の謂われや習わしで、人の名前のようなものが「寒四郎」。寒の入りから数えて四日目のことで、麦作りの厄日とされ、この日が晴れれば豊作、雨や雪なら凶作とされたとか。一方、「寒九の雨」は、寒の入りから九日目に降る雨のことで、豊作の兆しとされ喜ばれたそうで、寒四郎とは逆なのが面白い。またこの日に汲む水は「寒九の水」といい、この水で薬を服用すると効き目が増すといわれた。

九日目の水だけでなく、昔から一年で最も寒い寒の内の水は、雑菌が少なく腐りにくいとされ、酒や味噌、醤油の寒造りに使われてきた。他にも、日本古来の武道・芸事の稽古を寒中に行う寒稽古や寒さに耐えて修行する寒行(かんぎょう)、寒垢離(かんごり)などがあり、聞いただけで思わず首筋が縮んでしまう。

 

寒の時季に美味しさを増すもの

さて寒には、この時季ならではの味わいを増した美味があれこれと揃うのが嬉しい。例を挙げてみると、寒鰤や寒鱈、寒鯖、寒鰆、寒鰈、寒しじみなど旨みを増した魚介に、ちぢみほうれん草に大根、蕪など甘みを増す野菜、すぐきや菜の花など寒の漬物、越冬みかん、搾りたての新酒や酒粕、大寒味噌などなど。思うに、食材名の前に「寒」の文字が付いていると、一層美味しそうに感じてしまうから不思議だ。

 

寒の卵をさらに愉しむ江戸時代の「粕漬卵」

卵は年中ある身近な食材だが、卵にも寒の効力があるとされてきた。鶏が寒の時季に産んだ卵は「寒卵」「大寒卵」と呼ばれ、滋養に富み、食べると一年健康に過ごせるといわれてきた。

そこで卵に目が無い私、卵を使った大好物の歴メシがあるので、これまた寒の美味の発酵食品・酒粕と楽しむ江戸時代の一品「粕漬卵」をご紹介しよう。

その料理が載っているのは、天明5(1785)年に出版された『万宝料理秘密箱』という何やら妖しげな名前の料理本で、またの名は『卵百珍』。この本は世界初の卵料理のクッキングブックといわれており、100種類もの卵料理が紹介されている。

その中でも「粕漬卵」は本膳料理のお土産に、酒肴にという一級品扱いだった。考案したのは、京都の式性(しきしょう)料理人と推定されている器土堂(きとどう)という人物。式性料理とは、日本伝統の本膳料理など儀式的な接待料理のことで、この器土堂氏、長崎で卓袱料理を学んだといわれる粋な人で、それゆえこの本には、カステラや中国系の卵料理も記されている。

 

「粕漬卵」の作り方は超カンタン!

 (1)酒粕は室温で柔らかくして、煮切ったお酒を少々入れ、手で揉んでおく。板粕の場合は細かく千切ってから使用。

(2)卵を半熟に茹で、冷水に漬けてすぐに殻をむき、水気を拭いてから、蓋付き保存容器に入れた酒粕床に漬けて冷蔵庫で二日間置く。食べる際は包丁で縦に割ってどうぞ。

…と、ここまでは料理本の作り方だが、もう少し風味を深くするために作った私オリジナルのものもご紹介しておくと―

1の酒粕に西京味噌(白味噌)を、1:1の割合にしてよく混ぜ込む(酒粕床は冷蔵庫保存で約1ヵ月使える)。

 

酒粕の風味がじわ~っと染み込んだ卵を割ると、中からは金色に輝く黄身がトロ~リ。そこへ卵についている酒粕をてろてろと塗りつつ味わう粕漬卵。ああ、いくつでも食べてしまう、いつまでも食べていたい寒の美味である。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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