【歴メシを愉しむ(56)】
風薫る五月の旬魚で一杯

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.05.25

初夏の暑さを感じるようになってきた頃。段階的ではあるが外出・休業自粛の解除の報が流れ、充分注意しながらではあるものの、日常に戻る日々が始まりつつあるようだ。第2波の心配もあり油断大敵だが、見えない敵との共存の道をそろりそろり、歩もうと思う。

とはいえ、やはり気持ちの中に明るさと嬉しさが生まれてきている。「美味しく楽しむお家ごはん」シリーズは楽しんだが、ここいらで一旦お休みにして、今まで後回しにしてきた薫風吹きわたる五月の恵みを、しかと堪能することにしよう。

 

皐月五月の美味といえば鰹

昔からこの時節の美味といえば、鰹。今では年中出回ってはいるが、江戸時代には初鰹としてもてはやされてきた。初鰹について書かれたものに、必ずと言っていいほど登場するのが、元禄時代の俳人・山口素堂の「目には青葉山ほととぎす初鰹」。鮮やかな新緑があふれる初夏の江戸の風情が目に浮かんでくるようなこの名句、目にした者を、「おっ、今日はひとつ鰹のたたきを食べるか!」と、鰹がパブロフの犬にさせてしまう力を持っている。

江戸時代、江戸っ子は初物喰いを粋と見栄とし、初鰹はその代表的なものだった。「初物を食べると七十五日長生きできる」との言い伝えがあり、縁起物としても珍重した。「女房を質に入れてでも食べたい」とされた初鰹一尾の価格は、現代に置き換えるとおよそ15万円になるというから驚きだ。

 

東京人と大阪人の気質の違い

面白いのが、東京と大阪の鰹に対する嗜好の違いだ。東京人は脂がさっぱりしているこの時季の初鰹を好み、大阪人は脂がのった秋の戻り鰹を好む。しかしそれは脂ののり具合だけの差ではなく、東京人と大阪人の気質の違いでもあるのだ。

江戸っ子の初鰹好みは先述した通りだが、当然初物は値段が高い。しかも大量に出回らず、最盛期=旬の時期よりも味が落ちるものである。しかし、東京人は「値段の高さ」に粋を感じ、他人に先駆けて口にすることが何よりも大事で、値が下がったもの、多くの人が食べているものに価値を認めないのだ。

一方、安いものを買って自慢をするのが大阪人。「これ、なんぼ(いくら)で買(こ)うたと思う?」「1万円ぐらい?」「ちゃうちゃう~、3千円やってんで!」と、安さを自慢し、ええもんを安く買ったという買い物上手をアピールするのだ。私もこの種の会話はいつもやっている。ゆえに食べものについても、「高いものが美味しいのは当然で、そこには何の価値も無い」という考え方で、初物よりも出盛りの旬のものを好むのだ。加えて鰹は瀬戸内海で獲れなかったことや、春からこの時季にかけて、大阪人は瀬戸内の鯛をこぞって食べていたことも関係している。

 

しみじみと季節を感じながら鰹づくしで一杯

鰹料理の中でも、一番の人気はやはり「鰹のたたき」である。ランチの定食に、居酒屋や家の晩酌の肴にと、手軽ですぐに食べられて私も好きな一品だが、何度か続くと飽きるので、折々にはこんな鰹づくしメニューを楽しんでいる。

まずは生鰹の「腹身の銀皮造り」。銀の地に入ったイナセな縞模様にほれぼれしつつ、甘口の溜まりとおろし生姜で、冷酒を一杯。

続いては「生節と蕗の煮付け」。関西では「生節(なまぶし)」と呼ぶ「生り節(なまりぶし)」は、生の鰹をさばき、蒸す、茹でるなどの加熱処理をして半乾燥させたもので、酢の物、和え物にもいけるが煮付けにするのが一番美味しいと思う。さらにはそこに焼豆腐も一緒に煮ると、おふくろの味的度合いが増して、懐かしい味わいになる。お造りは冷酒だが、このメニューには常温か、ぬる燗がよろしかろう。

シメには三重県伊勢志摩の郷土料理「鰹のてこね寿司」で決まりだ。

作り方はいたってカンタン。まず鰹のお造りをヅケ(漬け汁:醤油、生姜汁、みりん 各大さじ1)にしておく。刻んだ大葉と白ごまを混ぜた酢飯に、海苔と葱をふりかけ、ここへ鰹のヅケをどっさりとのせて食べる。5月の風のように爽やかな大葉の香りに、こっくりとした鰹の旨みが相まって、「誰か止めて!」の美味な郷土寿司である。

…と書いているだけで、口中に大葉と鰹の薫風が吹きわたってきたので、今から鰹を買いに行こう!

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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