【歴メシを愉しむ(45)】
瀬戸内の春の風物詩~いかなご釘煮でごはん何杯?

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.03.16

今年も「いかなご釘煮」に舌鼓を打つ季節を迎えた。毎年 関西では2月末になると、播磨灘や大阪湾のいかなごの新子(しんこ=稚魚)漁の解禁日がニュースとなり、瀬戸内海沿岸の阪神間や淡路島、播磨地域の人々は、「ああ、春だなあ~」と、新しい季節の訪れを感じるのである。

 

江戸時代から瀬戸内の名物だった「いかなご」

いかなごは全国で水揚げされているが、昔から瀬戸内海沿岸は良質ないかなごが獲れる漁場で知られている。「いかなご」は、主に関西での呼び名で、地方によっては、「こうなご」、「めろうど」、「かなぎ」などと呼ばれている。

たべもの語源辞典(清水桂一編/東京堂出版)によると、文政9年に刊行された『東牖子(とうゆうし)』(田宮仲宣著)に、「京摂の俗、春の頃かますごと云ふ物を喰ふ。山陽、四国辺の海浜より出るものなり。海浜の漁人は、いかなごといへり」とある。

また、「いかなご」は、かますの子に似ているので、かますごとも呼ばれるが、かますと区別がつきにくいというので、「如何児(いかなご)」=「如何なる名の子か」という意味や、この魚は大きくなって如何なるものに成るだろうか? という意で、「如何成子(いかなご)」と名付けられたとか。関西では、いかなごの稚魚を「新子(しんこ)」、8~10cm程に大きくなったものを「かますご」と呼んで区別しているが、この説はなかなか面白いと思う。

漢字では「いかなご」は、「玉筋魚」と書くが、「玉」は群れている様を、「筋」はその姿が筋のように見えることからだという。

 

兵庫県の郷土料理「いかなごの釘煮」

けれども ここ数年いかなごは不漁で、早くも大阪湾では3月3日、播磨灘でも3月6日に終漁となってしまったのは、とても残念である。

それでもこの短い漁期に獲れたいかなごの稚魚(新子)は、兵庫県の郷土料理の「釘煮」にされるので、しばらくの間は我々の舌を楽しませてくれる。

「釘煮」とは、いかなごを醤油に砂糖、味醂、生姜などで甘辛く煮詰めたいわゆる佃煮で、ごはんに良し、酒に良しの美味なる一品。その小魚の姿が茶色く曲がっていることから錆びた釘を想像するというので名付けられたそうな。各家庭によって、ザラメ砂糖や水飴、さらには黄金糖飴を使って甘みを付けたり、生姜でなく実山椒を使ったりと様々なこだわりがあり、この時季、地元ではあちらこちらの家々から、いかなごを煮る香りが漂ってきて、春の風物詩となっている。

この「釘煮」、大正から昭和初期頃には作られていたらしいが、発祥の地は神戸市の長田や垂水など諸説あり、それぞれの地には「いかなご釘煮発祥の地」の石碑が建立されている。

 

いかなご釘煮お裾分けの風習

いかなご釘煮は、大量に作って、親類、友人、知人にお裾分けするという素敵な風習がある。この時季、兵庫県と大阪のスーパーや百貨店などでは、これら釘煮に使う調味料や、お裾分け用のタッパーまでをひとまとめにして陳列するコーナーが出現する。さらに他府県の人が驚くのだが、地元の郵便局では、いかなご釘煮を専用容器に入れて封入し全国へ届ける、通称「いかなご便」という、「いかなご釘煮専用のゆうパック」まであり、2月半ばまでには、郵便局が該当エリアにある各家の郵便受けに予約受付DMを投函する。それを見て人々は、「あ、もうそんな季節か!」となり、にわかに「いかなご釘煮にとりかからねば!」といかなごや調味料の調達態勢に入るのだ。

 

ごはん三杯を一杯に…

近年の不漁でいかなごは高値となり、いかなごの釘煮は、「庶民の味」ではなくなってしまったようで寂しい。いかなごもまた、幻の味となってしまうのであろうか?そう思うと、これまでは、いただきもののタッパーから取り出した釘煮を、鉢にてんこ盛りに移し替えて、炊きたてごはんにのせて大らかにパクパクと頬張り、軽くお茶碗三杯は食べていたのであるが、今年はその器を豆皿に変え、希少な美味をチビチビとごはん一杯で我慢することにしようか。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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