【歴メシを愉しむ(37)】
寒中の丑紅(うしべに)~牛肉を食べつつ春を待つ

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.01.31

早や1月も終わろうとしていて、今は寒の内の冬土用の時節である。冬土用は「寒土用」とも呼ばれ、冬の最後の18日間のことで、明けは立春前日の2月3日(今年は17日間)。冬から春へと移る季節の変わり目の時期であり、風邪をはじめ体調を崩しやすいので要注意だ。

 

冬土用の面白い風習「寒中の丑紅」

江戸時代、寒の時季に流行った風習が、「寒中の丑紅」。1年で最も寒い寒中に製した紅は「寒紅」といわれ、特に良質で発色が良く、唇の荒れを防ぎ、口中の虫を殺すなど薬用にもなるとされていた。中でも冬土用の頃に売り出された紅は、「丑紅」と呼ばれ、女性たちはこぞって紅を買い求め、紅屋の店先は大層賑わったとか。「丑紅」は「寒紅」ともども俳句の冬の季語にもなっており、この風習は明治にかけて残っていたそうだ。

 

「寒中の丑紅」ならぬ、「寒中の牛紅(うしべに)」

ならばと、食いしんぼうの私、「寒中の丑紅」は粧いの風習であるが、夏土用の鰻のように、冬土用にもシンボル的な食べものが欲しいので、「丑紅」という言葉にあやかり、「牛紅」=「紅い牛肉」を食べることを思い付いた。寒い寒中、ちょうど体調を崩しやすい冬土用の期間に牛肉を食べて精をつけるというのも理にかなっているではないか。

しかしそこは、「歴メシを愉しむ」というテーマであるので、歴史ある牛肉を食したい。ということで、目を付けたのが「牛肉の味噌漬け」だ。

 

江戸時代の「養生肉」を現代の「冬土用 養生肉」に

歴史上の牛肉の味噌漬けといえば、すぐ思い浮かぶのが譜代大名筆頭・彦根藩のもの。彦根藩が治める近江の国は、昔から良牛を飼育する技術に優れ、近江牛の産地としても有名。当時は牛の肉を食するのは禁じられていたが、同藩では赤斑牛(あかぶちうし/または黄牛<あめうし=立派な牛の意>とも)の味噌漬けを、「ご養生用の薬」である「養生肉」と称し、毎年寒の時季、寒中見舞いの品として将軍と御三家に献上するのが恒例になっていた。

この牛肉の味噌漬けは「反本丸(へんぽんがん)」という名前で、1687年に彦根藩士・花木伝右衛門が、明の書物『本草綱目(ほんぞうこうもく)』を参考に考案したと伝わっている。明朝の薬学書を基に製造しているあたり、牛肉を食べる口実のために「養生肉」と名付けたのではないことがわかり、興味深い。この「反本丸」が近江牛を広く食べる製品として扱われた最初の記録とされており、牛肉ご法度の江戸時代に食用の道をつけたとされている。

 

さて、寒さ厳しき冬土用、「寒中の牛紅」と称して、味噌床に漬けた紅い牛肉をじっくりと遠火で炙り、その奥深い旨みを思う存分味わおう。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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編集部
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