【歴メシを愉しむ(50)】
花見鯛で華やかお家ごはん

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.04.16

爛漫に咲いた桜の花びらが風に舞い散り、葉桜に変わり始めた木々を、今年はひとしお寂しい気持ちで眺め、見送る今日この頃ではあるが、一方で、巣ごもりの現在、「今春の、お家で楽しむ美味しいシリーズ」と題した企画に凝りだしている自分がいる。今回は第3弾、「花見鯛で華やかお家ごはん」といこう。

 

恋の季節を迎えた鯛がやって来る

春になると、うららかな瀬戸内海は魚たちの恋の季節を迎える。中でも寒中には深い海にいた真鯛は、桜が咲く頃から八十八夜にかけて、卵を孕んで薄紅の婚姻色ともいわれる艶っぽい色調を帯び、産卵のために瀬戸内海は明石、淡路島ほかの浅瀬や磯を目がけて近づいてくる。その体色は桜色に華やぐことから、この時季の鯛は、桜鯛、花見鯛と呼ばれ、喜ばれる。

その様子を、まるで乗り上げるように入り込んでくることから「乗っ込み鯛」、またその大群は小島のように見えることから「魚島」と呼び、この時季を「魚島どき」といって、大漁を喜んだとか。「魚島」は、井原西鶴の『日本永代蔵』(1688年)にも登場する言葉だが、今や昔、幻の言葉となってしまった。

 

日本人にとって鯛は海魚の王

古くは縄文人も食べていたという鯛は、日本書紀や古事記にも登場し、長く日本人にとってめでたい食べものの第一とされてきた海魚の王。16世紀頃に刊行された『包丁聞書』にも、門出を祝う膳の魚鳥の第一には鯛が挙げられている。鯛は、「めでたい」の「たい」に通じるだけでなく、あまたある魚の中で、美しい姿、色、味が日本人の嗜好に合っているからだろう。

時代は下り、江戸時代の天明5(1785)年には、当時ベストセラーになった『豆腐百珍』に続く“百珍もの”シリーズの料理本・『鯛百珍料理秘密箱』という様々な鯛料理を紹介する書物が出て、ヒットしたのである。

 

大阪人が大好きな桜鯛は大阪の食文化

昔から、「なにわの春といえば何を置いても桜鯛」と、大阪人が春の魚としてこよなく愛してきた桜鯛。豊臣秀吉が大坂城を築き、大坂の街づくりを始めた頃(1580年代)から、大坂の人たちは5月初めの八十八夜を中心におよそ1ヵ月の間ほど、真鯛のことを桜鯛と呼び、海からの恩恵を喜んできたという。

生よし、煮てよし、焼いてよし、〆には骨に熱湯をかけてお露(おつい)にするなど、捨てる部分がほとんどなく、食べ倒すことができる桜鯛は、旬の魚であるがゆえに値段も安い。これらのことが、始末を大切にする大坂人の好みに合っていた。女房を質に入れてまで喰うといわれた高価な初鰹を粋で食べる、初物好みの江戸人とは違うところである。

お世話になった人への贈りものとして、桜鯛を笹や松の葉を敷いた塗の箱に入れ、「魚島どきの鯛の贈答」という大阪独特の風習も生まれた。また商家では、魚島どきに年に一度の大振舞として、番頭はんから女中さん、丁稚どんに至るまで鯛の料理を満喫する習慣もあり、「お鯛さんをよばれる(いただく)日」として、奉公人たちを喜ばせたという。

 

花見鯛を愛でるお家ごはんでグビグビ

さて このように、刺身、塩焼き、潮汁、ちり鍋、酒蒸し、兜煮などなど、何をしても美味しく、余すところの無い桜鯛だが、私が大好きな料理を紹介すると―

以前にも書いたが、私は魚の部位の中でアラが一番美味だと思っており、鯛もまたしかり。そのアラを最も美味しく食べられると思うのが、「定家煮(ていかに)」である。この「定家煮」とは、鯛などの淡泊な魚を塩と酒で煮ることで、江戸時代に流行した。名前の由来は、鎌倉前期の公家で歌人の藤原定家。『百人一首』の選者でも有名な定家は、大衆に人気があったので、定家が好みそうなもの=「定家好み」として、後の時代に発案された料理法である。

 

<作り方は超シンプル!>

洗った鯛の頭やカマに粗塩を振り、土鍋に入れる。その上から日本酒(本醸造酒で十分!ただし料理酒は×)を一升瓶ごとドバドバ注ぎ入れ、ヒタヒタにして火にかける。沸騰してきたら出来上がり。日本酒を飲りつつ豪快にどうぞ。

 

もう一品は、名付けて「鯛たまめん」という鍋料理。もうずいぶん前の春の宵、海鮮ものが美味だという、とある料理屋に連れられ、お品書きには無い桜鯛を使った鍋料理が出てきて、あまりの美味しさにお腹がはち切れて動けなくなったことがあった。当時この店は松島新地があるレトロさ漂う大阪市西区九条にひっそりとあり、表に看板も何も無い少々怪しげであったが、この鍋の美味しさは未だ忘れられず、以来、必ずこの時季には家で作っている。

 

<こちらも作り方は超簡単!>

一番出汁を張った鍋に薄く切った新玉ねぎをこれでもかというほど入れて炊き、煮えてきたら、塩をして姿焼きにした桜鯛を入れる。煮えたら、鯛を箸でむしり取りながら、たっぷりの玉ねぎと一緒にいただく。玉ねぎの甘さと鯛の旨みとコクが死ぬほど旨い。鯛を食べ終えたら、固ゆでにしておいたそうめんを入れて食べる。そうめんを食べる手が止まらないのでご注意。

思うにこの鍋は、瀬戸内海岸地域に伝わる郷土料理で祝膳に供される「鯛めん」に、玉ねぎを追加したものだろう。その店では明石で獲れた鯛と淡路島産の新玉ねぎ、播州のそうめんを使っており、兵庫の名産づくしであったのだ。

 

桜舞い散る魚島どき、ふと思い出したこんな言葉―「花は桜木、人は武士」。これは江戸時代に、武士の理想像として、散り際の潔さが求められたことから生まれた言葉だといわれている。まるで海の男のごとく豪快に桜鯛を食べ倒している姿は、「魚は桜鯛、人は漁師」だと、笑いが込み上げてくる。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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