引き続き 家呑みで見直したアテについて記そうと思う。
今回のテーマは、地味ながらも頼もしいアテ、みりん干しである。若い世代の中には、「みりん干しって何?」という人もいるだろうが、まあお付き合い願いたい。
昔から愛されたイワシの加工品
一説には、大正時代初期に九州地方でイワシを醤油に漬けて乾燥したものが始まりともされている「みりん干し」。辞書で調べると大概が、「イワシやアジ、キスなどを開いて、みりん、醤油、砂糖などを混ぜた液に漬け、干したもの」となっている。
みりん干しは千葉県九十九里町が名産地としてよく知られている。
江戸時代、元禄の頃(1688~1704年)になると、江戸の町には房総(現千葉県)や相模(現神奈川県)から魚介類が大量に送られ、その中でも江戸庶民に人気があったのが安価なイワシだったという。特に房総はイワシの水揚げが盛んで、後に加工品も発展し、その代表がみりん干しである。
イワシというと一般的には、脂肪の多い真イワシを指すが、みりん干しには、真イワシより脂が少なく、煮干しやシラス干しにも利用される片口イワシが適しているそうだ。
このみりん干し、名前に「みりん」と付いているものの、現在では、みりんは使われず、調味液は砂糖と塩、イワシから出る旨みだけのようである。
秋になるとさらに欲しくなる渋いアテ
天高い秋空に浮かぶイワシ雲を見ると、さらにみりん干しを食べたい気持ちがムクムクと湧いてくる。
みりん干しは透明感ある飴色で深い艶があり、そのテラテラ・ツヤツヤの表面にはプチプチと白胡麻がふりまかれている。
網にのせて焦がさないように弱火でゆっくりと焼くか、フライパンで炒り焼きにするか、アルミホイルにのせてオーブントースターで炙ってもよい。
出来上がりを一尾ずつほぐす時は、指を火傷しないよう注意が必要である。フライパンやオーブントースターで焼く際は、一尾ずつほぐしてからでもよいが、私は、やはり焼きたての一枚を手に取り、「アヂ、アヂ、アヂヂ…」と言いながら、ほぐすのが好きだ。ほぐして熱くなった指で、耳たぶでなく、酒で満たされたぐい吞みを持ち、コキュッと一口飲んでは、みりん干しをつまむと一段と美味である。焼きたての芳しい香りに凝縮されたイワシの旨み、砂糖と塩が織り成す甘コク、胡麻の香ばしさ…それらに酒のふくよかさが加わり、もはや手が止まらなくなる。
ちょっとレトロな立ち呑み屋や居酒屋には、目立たないが、たいがい用意されている。こんなにも旨いのに、みりん干しは安価なアテだ。ためらわずにおかわりを注文できるのが嬉しい。色合いも地味で存在感も地味なればこそ、真に地味ぢからを持った頼れる渋アテ、家に冷蔵・冷凍保存しておくと重宝である。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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