【歴メシを愉しむ(107)】新緑の葉の香りを包んでいただく

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.05.12

今年の「立夏」は5月5日。禍(わざわい)を避け、家で好きな食・酒・本に囲まれて、モグモグ・クピクピ・フムフムと、結構楽しみながらこもっている間に、暦の上では 何と早や、夏が始まっている。

今回は、前回のコラムに続き、新緑が美しい5月にふさわしい、日本特有の「葉っぱで包む食文化」について である。

 

昔から木の葉を活用してきた日本人

この時季になると、新茶をはじめ、青い香りの食べものを飲み、食べたくなる。爽やかな香気が、心と身体に心地よく感じられるからだ。

葉っぱで包んだ食べものといえば、まず和菓子では柏餅、粽に、椿餅、桜餅などが思い浮かぶ。和菓子だけではなく、いかに日本人が昔から葉っぱを使っていたのか? その食文化に思いを馳せる。

葉を器として使っていた話を始めるには、まずはこの万葉集の歌をご紹介したい。「家にあれば笥(け)に盛る飯(いい)を草枕 旅にしあれば椎の葉に盛る」―

これは謀反の罪で捕らえられた有間皇子(ありまのみこ/孝徳天皇の皇子)が、刑死を前に紀伊へ向かう途中、藤白(現和歌山県海南市)辺りで詠んだといわれる。

「笥」とは、「食物を盛る器」のことで、「家に居れば器に盛るご飯を、こういう旅であるから椎の葉に盛る」という意味の、哀切極まる歌である。先帝の皇子であっても、罪人となったからには、ご飯を椎の葉に盛るとはあんまりだと泣けてくる。

これには異論もあり、たとえ謀反の容疑であれ、先帝の皇子の食を、旅先であっても椎の葉に盛ることはないのでは?ということで、「椎の葉に盛る」は、皇子の、覚悟の旅を表しているのではないかという説もある。

しかし、昔から皿などの器代わりに葉を使っていたようで、柏の葉は古代人の食器であったという。

朝廷の食事に仕えた人は「膳夫(かしわで)」、食事を司った役所は「膳司(かしわでのつかさ)」と呼ばれた。この名は槲葉(かしわば)を食器に使用したことに由来する。他にも、昔から飯などを包んだものには、笹の葉、朴葉(ほおば)、飯桐(いいぎり)などがある。

 

風薫る5月の恵み 青い香りを食べる寿司

また日本人は、和菓子以外の食べものにも葉を使ってきた。

代表的なものに「柿の葉寿司」がある。しめ鯖の押し寿司を、柿の若葉で包んだ素朴なすしで、古くから奈良県吉野地方の山あいで夏祭りのご馳走として食べられてきた。この地を訪れた旅人にも振る舞われてきたという郷土料理だ。

しめ鯖のほかに、鮭、海老、穴子などもあり、いずれも美味で、谷崎潤一郎も名著『陰翳礼讃』の中で、塩鮭の柿の葉寿司の旨さに感心している。

鯖の旨み、米の甘みを、胸がすくような青い香と美しい緑色の柿の葉が包み込んだこの美味なる寿司は、私も大好物で、清々しい香気を求めて口が止まらない。これはきっと、「香り」という気体を食べたがっているのだろう。(笑)

また、飛騨地方でいただいた、奥ゆかしい朴の若葉の香りに包まれた爽やかな味わいの朴葉寿司にも感動したものだ。

さて今や、山と友達となった新米猟師の私、よく通う山あいでこの時季、柿の木や朴の木、笹を見つけたら、ほんの少しだけ葉をいただいて、若葉の寿司を作ってみたい。青い香りがご馳走なので、包む寿司はシンプルなのがよい。なんなら、甘酢に漬けた生姜や茗荷など、爽やかさを加味してくれるものを酢飯に混ぜるだけでよいと思う。

さてさて、またまた家ごもりの楽しみができたのである。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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