世の中はどうあれ、せっかくの時節にはなおさらに、季節を感じる行事を大切にしていきたい、と思う。遠い昔から先人から伝承されてきた日本ならではの歳時記には、現在に通じるものが多く、心が和らぐ。
昔も今も同じな 五月の邪気払い
五月五日、端午の節句が近づいている。この「端午」とは何ぞや?であるが、「最初の午(うま)の日」という意味で、後に、「五日」となったのは、「午(ご)」は「五」に通じる音であることからといわれている。
昔から端午の節句には、家の軒先に菖蒲を挿す「軒菖蒲」をしたり、菖蒲を浮かべた「菖蒲湯」に入るなどの風習がある。菖蒲の香気には霊力があると考えられ、邪気を祓ってくれることを願ったものだ。
この日は祝日なのに、なぜ邪気を祓うのかというと、古くから、五月は「悪月(あしづき)」といわれてきたことに由来する。季節の変わり目には魔が忍び込みやすいとされ、また田植え前のこの時節には、身を祓い清めて豊作を祈る節目の時でもあった。万葉時代からも、この時季には野山に出て薬草を摘む、「薬猟(くすりがり)」という習わしがあったという。
今、まさに邪気が満ちた世を迎えている2021年の5月。早速先人に習って、玄関には菖蒲を挿した花瓶を置き、菖蒲湯に入ることにしよう。
菖蒲の葉と根には精油成分があり、保温や血行促進によいとされているし、爽やかな香りが、禍の下で暮らす日々の不安やイライラをリラックスさせてくれるに違いない。
行事菓子にもこめられた邪気祓いと縁起
端午の節句といえば、柏餅と粽。柏餅は柏の葉で、粽は茅(ちがや/現在では笹が多い)と、2種ともに葉で包まれた行事菓子である。これには葉で邪気を祓う願いがこめられているという。また柏の葉は、新芽が育つまでは古い葉が落ちないので、子孫繁栄の縁起物ともされてきた。
端午の節句に、まず食されてきた粽の歴史は古く、古代中国の故事に由来するとか。楚の王族の屈原(くつげん)という人が陰謀によって失脚し、汨羅江(べきらこう)へ身投げをした。悲しんだ姉が、命日である五月五日に、茅で包んだ餅を江へ手向けたのが始まりとされているとか。(諸説あり)
この習慣が日本に伝わり、端午の節句に粽を食べるようになったといわれている。平安中期の『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(935<承平5>年)には、「真菰葉(まこもば)を以て米をつつみ、灰汁(あく)を以て之を煮る.五月五日これを啖(くら)ふ」と記されているという。
時代は下って、柏餅が供えられるようになったのは、江戸時代の宝暦年間(1751~64)とも、天明年間(1781~89)ともいわれている。柏餅について、江戸中期の『歯がため』(1783<天明3>年)に、「江戸にては、端午に製し祝す。畿内(京都に近い国々のことで、山城・大和・河内・和泉・摂津の5カ国)の粽に等し.粽はなきが如し」とあるという。現在でも、端午の節句に、関東は柏餅、関西は粽を食することが多いといわれていることが頷ける。大阪人の私は幼い頃から、端午の節句には必ず両方を食べている。
というわけで、端午の節句とは、五月五日という月日も、邪気祓いが込められた行事も、現在の状況にぴったり当てはまる歳時記である。
端午の節句には、大人も子供も、柏餅と粽に舌鼓を打って、菖蒲湯にプカプカと、邪気祓いしましょうか。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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