【歴メシを愉しむ(101)】春が詰まった草餅ぱくぱく

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.03.19

早や弥生3月、私たちの生活を一変させた忌ま忌ましい禍のもと、2度目の春を迎えようとしている。そういえば、こんな禍が起こる前は、毎年この時季にはどんなお菓子を食べてなごんでいたのかなあと、ふと思った。雛祭りが過ぎ、春の気配を感じる頃といえば…そうだ、草餅であった。

 

よもぎの芳香と色で疫病退散を

草餅は、茹でてアク抜きをしたよもぎを搗き混ぜた餅で、「よもぎ餅」ともいう。現在では草餅といえば、蒸した上新粉に茹でたよもぎを入れて搗き、あんを包んだ菓子を指すことが多い。個人的には「草餅」と呼ぶ方が好きだ。生き生きと野趣を帯びたよもぎの芳香が溢れるこの餅には、春の野に萌え出た草々がぎゅっと詰まっているように感じるからである。

雛祭りには菱餅を供える風習があるが、それ以前は草餅が用いられていたという。古くは平安時代から母子草(ははこぐさ/別名モチヨモギ)を入れた餅だったらしい。平安中期に編纂された歴史書『日本三代実録』の849(嘉祥2)年3月3日の条に、母子草を使って餅を作り、「蒸しつきて餻(もち)とする」と記され、その名前からも母子草は、母と子の健康を守る草と考えられていたようだ。

ところが、母と子を同じ臼の中で搗き混ぜ餅にするのは縁起が悪いということで、室町時代後期頃から、代わりによもぎを用いることになったとされている。よもぎの持つ強い芳香と緑色は魔除けとして、邪気を祓い、疫病を防ぐといわれてきた。ゆえに雛祭りの節句菓子だけにとどまらずに、季節の風味を愛でる菓子として、一般に作られるようになったとか。

いつ、誰が、そのように思って節句菓子から季節菓子にしようと思い立ったのかはわからないが、草餅好きとしては嬉しいことだ。かしわ餅や粽(ちまき)のように、5月5日端午の節句だけの菓子などは、その日が過ぎれば影も形も無くなるというのは、その菓子のファンにとっては寂しいことだからである。

 

よもぎ湯でゆるゆる、草餅をぱくぱく

魔除けだけでなく、よもぎにはカロチンのほか各種ビタミンやミネラル、食物繊維など身体に嬉しい成分が豊富。平安中期の漢和辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には、「和名よもぎ、一名医草」とあり、その薬効成分は古くから知られていたようだ。

こうしたことからも、端午の節句の菖蒲湯や冬至の柚子湯のように、昔からよもぎ湯としても利用されてきた。消炎や血行促進、止血、鎮静などさまざまな効用があるとされ、腰痛、肩こり、皮膚の炎症、安眠、疲労回復など幅広い薬効が期待できるそうだ。さらによもぎは「艾(もぐさ)」ともいわれ、乾燥させた葉はお灸に使われてきたそうな。

お灸を据えられるのは遠慮したいが、春を待ちつつ、よもぎ湯にゆるゆる浸かり、香り高い草餅をぱくぱくと食べて、現代の疫病も退散させたいものだ。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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