食物繊維が免疫力を高めてくれる
人間の免疫の7〜8割は腸でつくられます。そのつくられ方には2通りあり、重要な役割をするのが食べ物。結論から言ってしまえば、食べ物の中に含まれる繊維が、免疫力を向上させる源になるのです。
野菜や果物、豆類には繊維がたくさん含まれています。たとえば、ゴボウを食べたとしましょう。ゴボウには、わずかなビタミンとミネラルが含まれているくらいで、栄養価はほとんどありません。100グラム食べたとしても、カロリーは65キロカロリー程度です。戦後、きんぴらゴボウを見たアメリカ人は、「日本人は貧しいから木の根っこを食う」と思ったそうですが、西洋人の感覚では、ゴボウは食べるに値しないのかもしれません。
しかし、ゴボウには大量の繊維が含まれています。体内で消化吸収されない食物繊維は、植物のカスみたいなものと思われていた時代もありましたが、じつは消化吸収されないからこそ、繊維は人間の免疫力を高めてくれるのです。
食物繊維が腸に届くと、腸は繊維を肛門のほうへ送り出そうとします。このとき腸は一定のリズミカルな動きをするのですが、これは蠕動(ぜんどう)運動と呼ばれ、蠕動運動が活発になればなるほど、人間の免疫力は高まることがわかっています。
また、腸内には乳酸菌などの微生物が活動しています。体に有益なこれらの腸内細菌にも、人間の免疫力を高めてくれる働きがあります。その腸内細菌は、腸に運ばれてきた繊維にくっついて増殖するのです。いわば、繊維は腸内細菌の揺りかごの役目を果たしているというわけです。
日本人は究極のベジタリアンだった!
免疫力を高めるには、腸を大切にして、日頃から繊維の多い食べ物をとるよう心掛けることが肝心です。そう考えれば、日本の伝統的な和食は理想的なのです。ひと昔前の日本民族は究極のベジタリアンだったのです。その頃の食卓には、ゴボウ、ゼンマイ、ワラビ、ツクシ、タケノコ、レンコン、ヘチマ、モヤシ、フキ、そして切り干し大根のような乾燥野菜など繊維成分多含食品が、毎日のように載っていたものでした。
ところが、今の日本人は繊維の多い食べ物をさっぱり食べなくなってしまいました。50年前の日本人は、1日に17〜20グラムの食物繊維を摂取していたのに、現在では5グラムにまで減っています。繊維の吸収量が4分の1になったということは、腸内で免疫を増やす力が25%にまで落ち込んだということにも等しいのです。
ある調査によると、東京都の小学校の5、6年生約2000人を対象に一番好きな食べ物を5つ答えてもらい、「学校給食に出して欲しい料理ベストテン」がつくられました。結果は、なんとも恐ろしいものでした。1位から10位の中に、和食は1つしか入っていなかったのです。
ベストテンをトップから順に並べてみると、1位・焼肉、2位・ハンバーグ、3位・トリのから揚げ、4位・ピザ、5位・スパゲティミートソース、6位・???、7位・ラーメン、8位・カレーライス、9位・サンドイッチ、10位・餃子。
さて、6位の「???」に入るのが和食なのですが、いったい何だと思いますか。答えは、なんと「回転ずし」。たしかに和食には違いありませんが、家庭で毎日食べるものではありません。回転ずしのお店に行って、繊維をたくさんとろうと思ったら、かんぴょう巻きとおしんこ巻きとガリばかり食べることになってしまいます。
飽食の時代といわれ、洋食および肉食を中心とした高カロリーな献立が日常的に食べられるようになりましたが、繊維をとる機会が激減したことで、病気に負けない丈夫な体をしっかりつくれていないのが、今の日本人の食生活ともいえるのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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