理想的な食事とは
奄美大島の人たちが毎日どんなものを食べているのか。奄美大島では鳥や豚が飼育されています。徳之島には牛もいます。それらの肉は、祭りや祝い事のあるときや、観光客をもてなすときなどに食べられますが、島の人たちが日常的に食べている動物性タンパク質は、なんといっても豊富な魚です。シンポジウムで奄美大島を訪れたときも、港には新鮮な魚がたくさん水揚げされていました。海の恵みは魚だけでなく、海草もあります。とくにモズクは、奄美大島の人たちの食卓には欠かせません。
繊維の多い食べものも、奄美大島の郷土料理の特色といえるでしょう。サツマイモは島の主要な農産物ですが、名産品にもなっているのが紫芋。私が奄美大島に行ったときも、野球の練習を終えたスポーツ少年団の子どもたちが、地元のおじいちゃんとおばあちゃんが蒸かしてくれた紫芋の差し入れを、みんなで美味しそうにパクパク食べていました。
苦瓜、糸瓜、冬瓜といった南国ならではの野菜も、繊維がたっぷりです。島でたくさんとれるパイナップルやバナナ、パパイヤなどの果物も、繊維が多い食品です。
また、大豆もよく食べられています。料理も味噌汁にして食べるだけでなく、味噌炒めにしたり、煮てから黒糖にからめたり。油で揚げて、お茶請けで食べることも多いといいます。
後世に伝えるべき、日本の遺産として
奄美大島の人たちが口にしているものは、人間の免疫力を高める理想的な食事といえるのです。
私は鹿児島県の伊藤祐一郎前知事に、「世界有数の長寿島として鹿児島県の離島を世界遺産にしましょう」と提案していました。それだけの価値があるのです。奄美大島は間違いなく世界でもっとも健康平均寿命が高い地域なのですから、この離島の食を含めた生活文化は、日本が世界に誇れる遺産として、次の世代に伝えていくべきです。
奄美大島の食卓と、沖縄の食卓——。食文化のルーツをたどれば、共通するところはたくさんあるはずです。しかし、一方は大きく形を変えることなく受け継がれ、もう一方は外来の食文化の影響を多大に受けてしまった。私が奄美大島で出会った元気なお年寄りたちの姿は、食文化を守ることの大切さを、その豊かな生き方をもって日本人に教えてくれているという気がするのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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