日本の水は世界一【小泉武夫・食べるということ(1)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2017.04.30

 心を育む水の力

 日本人は情緒豊かで、思慮深く、穏やかで、やさしくて、清らかな心を持っている。「わび」「さび」の世界は、日本人がつくりあげた素晴らしい美意識である――。という趣旨の指摘をしたのは、かつて駐日アメリカ大使を務めたエドウィン・O・ライシャワーさんです。

 私たち日本人の美しい心は、外国人の目も称賛すべきものとして映っていました。そんな日本人の心を育んできたものは何かと考えたとき、私の頭に真っ先に思い浮かぶのは「水」なのです。

 日本人は、世界で一番いい水に恵まれた民族です。醸造学や発酵学の研究で、私は世界各地の水を調査しましたが、日本の水は世界一。これは断言できます。

 水がきれいな土地は、世界中にたくさんあります。スイスやフランスの山岳地帯の水など、輸入されているミネラルウォーターは日本でも人気がありますし、たしかにきれいな水です。しかし、飲んだときに爽やかな「甘み」を感じることができる水は、そうそうあるものではありません。そんな甘みを感じさせてくれる数少ない水が、日本では豊富に湧いているのです。

 

 日本の水が美味しい理由

 日本の水は「軟水」です。ヨーロッパに多い「硬水」に比べて、日本の水はカルシウムやマグネシウムといったミネラル(無機物)を多く含みません。そのため、飲んだときに舌の上で雑味を感じさせないのです。

 では、日本の素晴らしい水は、どうやって生まれてくるのでしょうか? 日本列島は「馬の背」にもたとえられるように、北海道も、本州も、四国も、九州も、中央には必ず山脈が走っています。いわば、三角屋根のような形で日本列島は南北に伸びているわけです。

 そこに、たくさんの雨や雪が降ります。日本の年間降水量は、世界の年間平均降水量の一・八倍もあります。スギ、マツ、クヌギ、ブナなどの林に覆われた三角屋根の地形に降り注いだ大量の雨や雪は、落ち葉が堆積した肥沃な腐葉土の中にしみ込み、岩盤を通って地下を流れる水脈にたどり着きます。

 雨水や雪解け水が、湧き水となって地表に出てくるまでには、八〇~一〇〇年はかかるといわれます。それだけの年月をかけて不純物がろ過されるわけですが、日本は火山性の地層であるために、水が土中に長時間とどまることがありません。そのおかげで水に無機物が溶け込みにくいのです。

 日本の素晴らしい水は、自然の浄化装置によって生み出された、まさに気候風土の恵みといえるのです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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