食育は大人に対する教育
2005年11月、私はNHKの『クローズアップ現代』という番組に出演しました。テーマは「食の乱れは直せるか “好きな物だけ食べたい症候群”」。この年の7月に施行された「食育基本法」の成果について考えるという企画です。番組の冒頭でキャスターの国谷裕子さんから食育について問われた私は、こう切り出しました。
「食育は子どもに対する教育ではなく、大人に対する教育です」
食育は、この国の将来を背負って立つ子どもたちの問題です。しかし、子どもたちに「食」の何を教えるべきか、はたして大人たちはどれだけわかっているでしょうか。
ただのイモ掘りでは食育にはならない
あるときテレビを見ていたら、食育の現場を紹介する場面が映し出されました。都会の畑の一画を借りてサツマイモを植え、子どもたちが楽しそうにイモ掘りをしているのです。 その光景を見たときに、私は唖然としました。これが食育だと大人たちが考えているのだとしたら、とんでもない話です。
子どもにとって農業の体験は意味のあることです。とは言っても、楽しくイモ掘りをさせるだけなら、それはレクリエーションであって、農業の大切さや食の心を教えることにはなりません。大人が子どもたちに教えるべきことは何か? もしも食育の教科書があるとすれば、1ページ目に書かれるのは、「食べることの意味」なのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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