自然界の驚くべき共生関係(2) 【小泉武夫・食べるということ(49)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2018.05.17

 アンモニアをめぐる大豆とバクテリアの助け合い

 大豆の茎を引っこ抜いてみると、根っこにはびっしりと白っぽい塊が付着しています。大きさは直径数ミリ、大きいもので1センチ程度。これは根瘤バクテリアといって、無数の細菌が固まったものです。この根瘤バクテリアとの共同作業によって、大豆は大量のタンパク質を貯め込むのです。

 詳しく説明しましょう。大豆は植物ですから、葉っぱで呼吸し、空気中の窒素や水素や炭素を根に送ります。土の中にいるバクテリアは、大豆が送ってくれる窒素と水素に群がってきて、瘤(こぶ)状になって根っこに住み着きます。そして、体に取り込んだ窒素(N)と水素(H)を利用して、アンモニア(NH³)をつくるのです。アンモニアは、昔の農家が畑に糞尿を撒いていたことからもわかるように、植物にとって素晴らしい栄養源です。

 根瘤バクテリアがつくったアンモニアを、今度は大豆がどんどん根から吸い上げます。このアンモニアを原料にして、大豆はタンパク質を合成します。そして、つくったタンパク質を豆の中にどんどん蓄えるのです。なんとも見事な共生関係だとは思いませんか。

 

 米にまで恩恵を与える大豆

 しかも、共同作業はそれで終わりではありません。豆の中に十分なタンパク質を蓄えると、大豆は茎の中に弁をつくって、アンモニアの吸収をやめてしまうのです。すると、どうなるか。根瘤バクテリアは、つくったアンモニアを土の中に放出し始めます。アンモニアは水溶性ですから、土の中へどんどん広がっていきます。こうして大豆畑の周辺は、栄養をたっぷり含んだ肥沃な土壌に変わっていくのです。

 さて、「米も大豆の恩恵を多大に受けている」と先に述べました。そこで、日本の原風景を想像してみましょう。奈良時代には、水田で稲を育て、畦道(あぜみち)には大豆が植えられていました。畦道からは、根瘤バクテリアが放出したアンモニアが水田に溶け出し、今度は稲の養分になります。言ってみれば、大豆は稲の生育にまで一役買っていたというわけです。

奈良時代の日本人が、そんな自然界の仕組みを知っていたとは思えません。しかし、水田の畦道に大豆を植えると稲も元気に育つということを、経験として知っていたに違いないのです。日本の食文化にとって、大豆は米に負けないほど重要な役割を果たしてきたのは、間違いのない事実なのです。

小泉武夫

 

※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。

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編集部
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