滋養性が高い湯葉を見直そう
豆腐については、いまさら細かい説明はいらないでしょうけれども、 私が日本人にもっと知って欲しいと思っているのが、湯葉の滋養です。
「油波」「湯婆」とも書きますが、その製法は鎌倉時代に禅僧が伝えたといわれています。にがりを加えずに豆乳を煮ると、大豆のタンパク質が薄い膜になって表面に張ります。これを棒ですくい取って、水気を切ったものが「生湯葉」、乾燥させたものが「干し湯葉」になるのです。
湯葉の主成分はタンパク質と脂質で、そこにミネラルやビタミンも含まれています。言ってみれば、大豆から栄養分だけを取り出して、それを濃縮して固めたような食べ物です。精進料理には欠かせない食材ですが、質素な精進料理の中でも、もっとも滋養性の高い食べ物として重宝されてきました。
食べ方としては、生のまま刺身にしたり、煮物の具や椀種にしたり、油で揚げたり。精進料理以外では、春巻きの皮のように用いて、白身魚や海老のすり身を包んで揚げ、抹茶塩なんかでいただいてもうまいものです。
一般の家庭では、なかなか食卓に上る機会も少ない食材かもしれませんが、いろいろ応用が利いて便利な食材でもあります。市販されている干し湯葉の種類も、板湯葉、大巻き湯葉、中巻き湯葉、小巻き湯葉、絞り湯葉、渦湯葉、結び湯葉など、実に豊富です。湯葉は、日本人が生んだ傑作ともいえる滋養食なのですから、もっと日常的に食べられてもいいと私は思うのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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