【歴メシを愉しむ(93)】紅白魚合戦~東の紅い魚、西の白い魚

カテゴリー:食情報 投稿日:2021.01.09

昨年の紅白歌合戦は、未曾有の禍の下、シンプルにじっくりと歌を聴かせる構成で、多くの人々に感動を与えたようだ。お正月準備も済ませた大晦日の夜、ほっこりとお酒とアテに始まる晩ごはんのひと時、なぜか毎年必ず観てしまう。きっと、この国民的長寿番組は、ゆく年を見送る特別な時間とセットになり、日本人のDNAに刷り込まれているのだろう。

 

紅白は「縁起物」であり、「対抗する二つの配色」を表すもの

日本文化における「紅白」は、「おめでたい」「縁起が良い」という意味合いを持つ。正月のおせちで食べた紅白かまぼこ、紅白なますをはじめ、紅白餅、紅白まんじゅう、食べもの以外でも、祝いの席の紅白幕、紅白の水引き、紅白リボン、紅白紐、紅梅白梅…など、紅白はめでたい縁起物として様々に用いられている。

一方、冒頭の紅白歌合戦やスポーツ・運動会の紅白戦など、対抗する二つの配色を表す場合も紅白が使われてきた。その理由は、平安時代末期、源平合戦の治承・寿永の乱(1180~1185年)で使われた旗に由来するという。戦の場で、源氏は白い旗(白地に紅色の丸)、平氏は赤い旗(紅地に金色の丸)を用いていたことがルーツだとされている。 

なるほどなるほど…と頷きかけて、うん、待てよ。今回のテーマは、「東の紅い魚、西の白い魚」で、東京人は紅い色の魚が、大阪人は白い色の魚がそれぞれ好きであるということを書こうとしているのに、白い旗の源氏は関東で、紅い旗の平氏は関西なのだ…何やら困ったぞ。

 

東の赤い魚、西の白い魚

いや、何も困らなくてもよい。魚の好みに関しては、歴史的に見ても東と西で紅白が逆転しているのだからしようがないのだ。

さよう、我々大阪人は昔から白身魚が好きである。春の花見の頃、瀬戸内海で獲れる鯛を桜鯛と呼んで珍重し、夏には天神祭の祭り魚の鱧、正月の年取り魚として欠かせない出世魚のぶり、冬鍋の王者・ふぐ。片や東京では、江戸時代から、初物に目が無い江戸っ子が女房を質に入れても食べたという、「目には青葉山ほととぎす初鰹」の鰹、天保の頃 大漁に獲れたので醤油文化の地らしく、ズケまぐろとして鮨ネタに使って流行し、ねぎま鍋としても喜ばれたまぐろ、年取り魚の鮭と、紅身魚が好まれる。

 

「てっちり」は鉄砲の鍋

昔から大阪人はふぐ好きで、全国流通量の6割を消費するという。味わう料理はもちろん冬鍋の王者、「てっちり」。我が家でもこの正月元日の夜、鍋初めに「てっちり」を食べた。そう、大阪では誰一人として、「ふぐ鍋」とは言わず、「てっちり」と言う。その由来は、「ふぐの毒は当たれば死ぬ」という洒落で、ふぐのことを「鉄砲」と呼んできた。この「鉄砲」の「鉄」と、「ちり鍋」の「ちり」で、「てっちり」。同様にふぐの刺身のことは、「鉄」と刺身の「さ」で、「てっさ」である。

これは大阪人の、言葉を省略することを好み、食材の状態をそのまま料理名にする気質が表れている。「ちり鍋」にしても、刺身の薄造りを熱湯にくぐらせると、「ちりちりっ」と縮むことから、そのまんま「ちり鍋」と命名された。ほかにも鍋類で言えば、肉の「しゃぶしゃぶ」や鯨の「はりはり」がそうである。

さて、鉄砲の美しい白い身は、その淡泊な味わいの中から得も言われぬ甘みと旨みが現れ、底知れぬ美味。ふぐと野菜から出た出汁を味わい尽くすシメの雑炊が、これまた天国の味わいなのだ!

「てっちり食べんと冬が越されへん」と言わしめるこの一品こそ、大阪を代表する料理であり、なにわの食文化である。

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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