先日、未曾有の禍発生以来 久しく会っていなかった友人と、カウンター割烹で互いの無事を祝して乾杯をした。
先付、椀、造り、焼物など美味料理でゆるゆるお酒も進んだ頃、好物の香ばしい「竜田揚げ」が登場した。熱々のところをハフハフいただきながら、しみじみと私が、「竜田揚げも食べ納め…」と呟いたら、友人が、「えっ、なんで?」と訊き返してきたので、「いよいよ紅葉も終わりだから」と、そこからひとしきり竜田揚げ談義となった。
紅葉が由来の「竜田揚げ」
「竜田揚げ」は、主に鶏肉のほか豚肉、鯨、魚などに、醤油、みりん、酒などで下味を付け、片栗粉をまぶして揚げた日本料理だ。
この料理をなぜ「竜田揚げ」と呼ぶのか?そこには日本情緒あふれる由来がある。
「千早ぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは」。
この歌は、六歌仙の一人である在原業平が詠み、『百人一首』にも収録されている。歌の意は、「神々の時代にさえ聞いたことがない 竜田川がくれない色に染め上がるなんて」と、竜田川の水面を真っ赤な紅葉が埋め尽くし、美しい錦の布のようになっている情景を詠んでいる。
古よりこのような歌に詠まれるほど紅葉で有名な場所が、奈良県の西にある竜田山と、そのほとりを流れる竜田川。竜田山は秋の女神「竜田姫」が司り、その袖を振って山々をくれないに染めていくという伝説があり、「竜田姫」は織物や染色の神として、今も崇拝されているとか。
「水くくるとは」には、「川の水を紅いくくり染め(しぼり染めのこと)にしたかのように見える」という意味で、昔の人は秋の紅葉の彩りを錦の布に例えた。
この歌が由来となっているのが、「竜田揚げ」で、からりと揚がった衣から醤油色(=紅い色)の材料が透けて見える様子を、「竜田の錦」=「紅葉」に見立てて命名されたという。
ファーストフードにもなった人気もの
このように風情ある日本料理の「竜田揚げ」が、現代ではハンバーガーや宅配ピッツァ店のサイドディッシュなどにもなって人気を博しているのはとても嬉しい。何故なら、ファーストフード店メニュ一となっていることは、若い世代が食する機会が多いということであり、それは食文化の継承になるからである。おにぎりの具やサンドイッチほかもっと広がって、「竜田揚げ」という料理が存続していってほしいと思う。
懐かしい「竜田揚げ」とは
一方、現在60~70代以上の世代にとって、懐かしく思われる「竜田揚げ」の食材は「鯨」ではないだろうか。「鯨の竜田揚げ」は、この世代の方々の学校給食メニューとしてよく登場した。子どもの給食メニューとしては、風情のある、大人びた一品だったといえるが、鯨肉の臭みを取るために、下味を付けて揚げる竜田揚げにしたともされている。大阪人の郷土食でもある鯨は私の大好物なので、給食に鯨の竜田揚げが出るとは羨まし過ぎるが、今となっては、給食のパンかご飯と食べるより、日本酒でいただきたいものだ。(笑)
さて本年も、紅葉狩り前の「木の葉丼」に始まり、紅葉を見送っていただく名残りの「竜田揚げ」に至り、さてさて、歳末である。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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