【歴メシを愉しむ(79)】神さまの魚「秋味」

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.10.04

頬に心地よい涼風、突き抜ける蒼く高い空、やっと来た秋にホッと安心。というのも今年は、春先の「三寒四温」の逆パターンのような、「三涼四温」ともいうべき状況が続いていたので、嬉しさもひとしおなのである。

早速にも秋の訪れにふさわしいものを食べなければ、という気持ちになるのが、食いしん坊。そう、最も秋らしい、秋に食べる、秋の美味といえば、ずばり、「秋味」である。

 

美しい「秋味」の名の、由来と鮭のロマン

秋の訪れとともに必ず話題に上る「秋味」は、秋になり産卵のため生まれ故郷の川に帰って来た鮭のこと。江戸時代の方言・俗語・俗諺(ぞくげん)を集めた辞書『俚諺集覧(りげんしゅうらん)』(19世紀前期成立)には、すでに、「秋味、鮭を云う」と記されているという。またこの頃、北海道や東北産の秋鮭を運ぶ廻船を「秋味船」と呼んだそう。いかにも美味しそうで、素敵な船の名前ではないか。

かつて鮭の取材の際、秋になって、川に入る直前に沖で獲れたものが最も美味しいといわれていると伺ったことがある。いわゆる新物の秋鮭漁は今、最盛期を迎えている。

川で生まれた鮭は、北洋の海で育ち、4~5年後に大きな群れで日本近海へ押し寄せ、自分が生まれた故郷の川をさかのぼって産卵する習性があり、これを「母川回帰(ぼせんかいき)」という。なぜ鮭には北洋への道や日本の位置、帰るべき故郷の川がわかるのだろう? これは未だ解明されていない不思議であるが、先住民族であるアイヌの人たちの言い伝えを知ると納得できる。

この「秋味」の名は、アイヌ語の「アキアチップ」=「秋の魚」の転訛だともいわれている。

アイヌの人々は、大切な冬のたんぱく源である鮭に感謝をし、「カムイチップ」=「神の魚」と称して、神の化身と信じ、敬っていたという。鮭となって人界へ現れたものは、そのままでは神界へ帰れないので、形骸を「カムイヤンゲ」=「神の土産」として人間に授け、再び神界へ帰ったのだとか。

 

「この秋味が目に入らぬか!」~黄門さまも食べたであろう秋の美味

先述の取材の際の話だが、1688年に、なんと水戸の黄門さまが大型帆船に乗って、北海道石狩に上陸したそうな。その時に記された書物には、「船が通れないほどたくさんの鮭が川を上っている」「船にはアイヌの人たちと交易した一万本もの干鮭などが積まれている」とあるという。さすが時代劇でもよく知られる日本全国を行脚された黄門さま、石狩まで足を延ばしておられたのだ。

これにさかのぼること1604年、石狩の松前藩は幕府に、米ではなく、鮭を納めていたという。この頃石狩には、さぞや溢れかえるほどの鮭が揚がっていたのだろうなと想像するだけで、鮭を狙うヒグマのごとくヨダレが出てくるのである。

 

鮭あれば一日

鮭おにぎりに鮭茶漬、酒肴としての鮭と米の酒・日本酒―いやはやこれほど、米に合う魚があるだろうか。時には栄養バランスほか一切のもろもろを考えずに、大らかに鮭と米だけで過ごす一日があってもいいのではないかと思う。秋晴れの空の下、ジュウッと焼いた秋味をたっぷり包んだおにぎりにかぶりつく。

ああ、鮭よ鮭、何故にそんなに旨いのか?

歳時記×食文化研究所

北野 智子

 

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