酒粕か米麹か
市販の甘酒には、2つの原料が存在します。酒粕で造られる甘酒と米麹から造られる甘酒です。
まずは甘酒の歴史を振り返ってみましょう。
米麹から造られた甘酒は、天甜酒(あまのたむざけ)が元になったとの記述があります。古代に書かれた『日本書記』によると 木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が造ったのが、甘酒(天甜酒)の最初であるとされています。甘酒は、醴酒(こさけ)、あるいは一夜酒ともいいます。醴は、一文字で「あまざけ」ともいいます。また、一夜で造った酒は、発酵しておらず、甘くて味が濃いために、のちに甘酒といわれました。
夏の日、江戸市中に甘酒売りが登場し、暑くて、しかも栄養状態が悪い当時のこと、栄養補給として飲まれ、いつのころからか夏の風物詩となりました。小泉武夫先生が甘酒を「飲む点滴」と表現したルーツになります。ですから俳句でも「甘酒」は夏の季語になっているのです。
健康効果に注目
一方、酒粕は、「糟湯酒(かすゆざけ)」として、『貧窮問答歌(ひんきゅうもんどうか)』のなかで、山上憶良(やまのうえのおくら)が書いています。これが酒粕甘酒の原型と考えられます。時代が下ってくると「手握り酒」とよばれ、食べるお酒として親しまれたり、お酢の原料として、発酵させたりします。奈良では、奈良漬(粕漬け)の漬け床としても用いられてきました。
しかし、糟湯酒などの飲料としての広い用途は近年まであまり見られませんでした。要因の一つとして、酒粕には約8~10%程度のアルコール(市販されている甘酒の原料をみて「酒粕」と表記されていれば1%未満のアルコールを含んでいると考えてよい)が含まれていること、甘さがないため、砂糖などで味をつけなくてはならないことでした。
最近では、酒粕のタンパク質が油を吸着して、油を体外に排泄してくれ、ダイエット効果や健康機能面が注目されています。市販の甘酒にも米麹甘酒のいいところと酒粕の甘酒のいいところをミックスした粕入り米麹甘酒も市販されています。ちなみに米麹から造られる甘酒はアルコールを含みません。
金内誠(宮城大学教授)