【今さら聞けない発酵の疑問(3)】発酵食品は腐らないの?

カテゴリー:発酵食品全般 投稿日:2020.07.29

乳酸とエタノールをつくる

発酵とは、微生物の代謝(一連の化学反応)によって行われるものという話はすでにふれました。特に発酵食品には、食用微生物などが食品中で発酵しています。食用微生物は、安全であることが重要で、乳酸菌や発酵性酵母、納豆菌、麹菌などが主なものです。これらの安全性は、経験的にも科学的にも十分に確認されています。乳酸菌や発酵性酵母でいえば乳酸菌は乳酸を生産し、発酵性酵母は主にエタノールを生産します。これが発酵食品中でおいしさとなるわけです。

乳酸菌の乳酸は、pH(ペーハー)を下げる働きがあります。pHとは酸性を示す単位で、pH7が中性を示し、7より低いpHでは酸性、7より高いpHではアルカリ性を示します。多くの微生物はpH5.0以上の中性域でしか生育できません。大腸菌などはpH5.0以下ではなかなか生育できなくなりpH4.0では生きていけなくなるともいわれます。

そこで、乳酸発酵の代表といわれるヨーグルトはpH4.0といわれ、多くの微生物が生育できなくなるpH環境なのです。

 

静菌作用を持っている

また、酵母の場合はアルコール(エタノール)をつくります。エタノールが1~8%であれば大腸菌などの細菌が、生育できにくい(静菌作用)のです。つまり、これらの微生物が生育した発酵食品は、他の有害な細菌は生育しにくくなるわけです。さらに乳酸菌類や納豆菌などは、バクテリオシンと呼ばれる他の微生物の生育を阻害する抗生物質の作用を持つペプチドを生産します。

 

長期保存には注意が必要

バクテリオシンは、アメリカではすでに食品にも利用されるぐらい人間には無害で、胃腸で完全に分解されます。この作用のおかげで、大腸菌などの有害細菌は発酵食品中では生育できないのです。そのうえ、長い菌糸で米を覆いつくすように、旺盛に生育している麹菌などの発酵微生物は、大腸菌などの細菌が入っても、生育できず死滅します。このため発酵食品は腐りにくいというわけです。

ところが長期保存(発酵・熟成ではない)すると、発酵微生物の作用が弱まります。アルコールや乳酸の静菌作用が弱まるため、他の菌種が生育しやすくなるのです。腐敗を防ぐためには、長期保存に関していえば、発酵食品といえども適正な方法で保存し、保存・保管・熟成方法に気をつけなくてはなりません。

 

発酵と腐敗は何が違う?

『「発酵」と「腐敗」の違いは?』といえばふつうは、「発酵」は食べることができるもの、「腐敗」は食べることができないものという答えが返ってきます。しかし、発酵の世界は食品だけにとどまりません。抗生物質などの医薬品のほかにも肥料の「コンポスト」も「発酵」がかかわっています。

「発酵」と「腐敗」の違いは、科学的には同じ反応です。

しかし、微生物を利用・使用する側のとらえ方の違いによって呼び方が変わるのです。つまり、微生物を使う私たちが「役に立つ」と思ったら「発酵」、「役に立たない」と思ったら腐敗です。

微生物の納豆菌を蒸したマメを発酵させたものが「納豆」で発酵食品です。芳醇な独特の香りが食欲をそそります。一方、納豆菌が意図しない食品(保存しておいた焼き魚や卵焼き)に生育したらどうでしょうか? 独特の香りは、悪臭にかわります。これは腐敗です。食べる気にはならないですよね?

また、コンポストなどの肥料を完全に熟成させると臭いもなく、畑に撒くこともできます。これは人間が食べることができない「コンポスト」ですが、この発酵物は、非常に有益なものになっています。微生物はおいしい発酵食品のために「有益」な代謝もしてくれるのです。

ただし微生物を伴わない発酵もあります。紅茶やウーロン茶の茶葉の発酵です。茶葉の「代謝」によって行われます。この「発酵」は微生物ではなく、茶葉自身の代謝によって、ポリフェノールが色づき、濃い赤茶色と香気を呈してくるのです。

金内誠(宮城大学教授)

 

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