【歴メシを愉しむ(69)】
天神さんの夏祭り~あひる鍋

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.07.24

今年の夏祭りは、いずこも中止か延期、規模縮小となっているようだ。

例年、大阪の夏を華やかに彩る天神祭も(7月25日)、荘厳華麗な陸渡御、船渡御、奉納花火など、人を集める神賑行事は、全て中止となってしまっている。

神事本来の目的である「疫病退散」を祈る神事諸祭儀は、神職のみで執り行われるという。 

 

今年の天神祭は

日本三大祭の一つ、天神祭の起こりは、平安時代中期の951(天暦5)年、千年以上の歴史と伝統がある。

渦中のことゆえ、致し方ないとは思うものの、残念で寂しいことだ…。と、ここまで打っていたら、7月21日の朝日新聞夕刊のトップ面にデカデカと、天神祭の神事が中継されるという記事が載っており、なんと、千年以上 門外不出の神事全てがユーチューブで生配信されるというのだ。し、しかも全世界に!

コロナ禍は世界規模、ライブ配信することで世界の人々とウイルス退散を祈願できれば―と壮大な思いを語る宮司。さすが大阪の天神さん、やることが太っ腹! で、でかい! と、大阪人はみな拍手喝采を送っていることだろう。

 

天神祭の行事食で盛り上がる

とはいえ、天神祭の日にライブ配信だけを観て過ごすのは大阪人の名がすたる! と、一人奮起し、名付けて「家飲み天神祭」を愉しむつもりでいる。

ご存知の通り、天神祭の行事食は「天神さんの祭り魚」とも呼ばれる「鱧」。昔から「梅雨の水を飲んで旨くなる」といわれてきた鱧は、強い生命力を持ち、暑気払いにも食されてきた。

天神祭のご馳走は、この旬魚の鱧を湯引きにして氷水でさっと冷やした「鱧ちり」を筆頭に、「鱧の照り焼」「鱧の棒寿司」などなど、まさに鱧づくし。

そして大阪蒲鉾の伝統である鱧のすり身をふんだんに練り込み、きくらげを入れた「白天」という練り天ぷらと貝割れ菜のお汁(大阪弁で「おつい」)などを、祭り酒と一緒に食べるのだから堪らない。

 

もう一つの行事食「あひる鍋」

鱧ほどは知られていないが、もう一つの天神祭の行事食が「あひる鍋」。これは合鴨のすき焼きのことだが、この鍋にも長い歴史がある。

昔から「天神さんの夏祭りとあひる」といわれ、天神祭にはあひるですき焼きをする風習があった。その謂われは、豊臣秀吉が あひるを飼育することを奨励したことから、大阪ではあひる飼育が盛んとなり、明治時代には全国の80%ものシェアを誇る大阪の産業になったという。

水田の害虫取りにも利用されていたあひるは、夏に脂肪がのり、「夏鴨」とも呼ばれた。夏バテ防止にも喜ばれ、天神祭にあひるをすき焼きにして賞味する風習は、江戸の土用の丑の鰻に並ぶほど広く知られていたようだ。

 

家飲みで粋に楽しみたい天神祭

毎年の天神祭では、倒れそうになる蒸し暑さをものともせず、渡御の祭囃子に気分を高揚させ、奉納花火で最高潮に達し、帰りに新地や梅田で飲み直す、というのが恒例であったが、今年はちと違う。

エアコンが効いた涼しい部屋で、グツグツと煮込んだ、あまりにも美味な合鴨肉の旨みとコクを堪能しながら、お酒をいただく―粋な夏のすき焼きと天神祭ライブを家でゆっくりと楽しむつもりでいる。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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編集部
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