【歴メシを愉しむ(68)】
夏土用 鰻食らわば頭まで

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.07.21

今年の暦では「土用の丑の日」は2回ある。「一の丑」は7月21日で、「二の丑」は8月2日。鰻は大好物なので、丑の日が2回あるのは嬉しいことだが、近年の鰻の高騰ぶりは目を見張るものがあり、喜んでばかりもいられない。

 

土用の丑の日の始まり

土用とは五行思想に由来する雑節で、立春、立夏、立秋、立冬それぞれ直前のおよそ18日間のこと(今年の夏土用は7月19日から8月6日までの19日間)。

土用の期間は、季節の変わり目なので体調を崩しやすく、特に夏の土用は猛暑で体力も落ちるので、昔から食養生に食べられてきたのが土用の鰻である。

この風習の始まりは江戸時代、平賀源内が、毎年夏枯れで客が来ないのを嘆いていた馴染みの鰻屋に頼まれて、夏の土用に鰻を食べると夏負けしないとPRするため、「本日土用の丑の日」と書いた引札(現代の広告コピー)が始まりとされる。これが大当たりし、以降、「夏の土用は鰻」を定着させたといわれている。

 

「養生食」の「う」のつくもの

日頃 質素な食事をし、栄養も充分でなく、薬もなかった江戸の庶民にとって、夏バテは命取りともなった。ゆえに食べられる時には、できるだけ精のつくものを食べようとしていた。江戸も中期になると、様々な食べものが町にも出てくるようになり、人々の食への関心も高まっていき、「養生食」という考え方が広まっていったようだ。

鰻は身体の抵抗力を高めるビタミンAや疲労回復によいビタミンB1が豊富で、ほかミネラル、DHA、EPAなど身体にとって大事な栄養素があり、夏バテ予防にぴったりの食材だった。

ほかにも昔から夏の土用には、「う」のつくものが身体に良いとされ、「鰻」以外にも「梅干」「うどん」「瓜」などはその代表的なもの。

「瓜」は、夏場の喉の渇きや身体を冷やす果実として珍重されており、時代劇などでも井戸水で冷やした瓜を切って食べるシーンが出てくる。また「瓜」を酒粕に漬けた奈良漬は、鰻丼の最良の箸休めである。

ここ数年は現代の「う」のつくものとして「うし(牛肉)」も加わり、「鰻丼」の代わりに「牛丼」を食べる若い人も多い。

 

大阪ならではの鰻の「半助」

大阪以外の人(あるいは大阪人でも若い世代)は、「半助」と聞いても、「はて、何のこと?」だと思うだろう。鰻屋の店先に、「半助あります」という貼り紙を見かけたことはないだろうか。

これは鰻の蒲焼の頭の部分のことで、かつて鰻屋では、この半助をひと舟いくらで売っていた。関西の蒲焼は、頭付きのまま焼くので、頭にもタレが染み込む。お客に出す時は頭を取って供するので、半助が余りものとなる。そんな余りものを売るなんて、と思うなかれ。半助は立派な料理の材料なのである。

昔から大阪の家庭で作られてきた「半助豆腐」は、半助と焼豆腐を醤油とみりんで煮込んだもの。タレが染みた香ばしい半助からいい出汁が出て、酒のアテとしてもいける、大阪の始末の精神がこもった一品だ。

「半助」の語源は諸説あり、昔は1円玉を円助(まるすけ)と呼んでいたそうで、その半分の値段で舟一杯の鰻の頭が買えるからとも、打ち首にされる罪人をそう呼んだからとも伝わっている。別名を「うずら豆腐」ともいい、こちらは「鰻の面だけ」なので、「鰻のつら=うずら」というシャレである。

残念ながら最近では「半助」は入手困難となっており、大阪人としては少し寂しい。もし鰻屋で見かけたら、是非「半助豆腐」をお試しあれ。

 

<半助豆腐の作り方>

鍋に水、醤油、みりんを入れ、煮立ったら半助を入れる。

半助の出汁が出たところで、焼き豆腐を加えて煮上げる。葱を加えても美味。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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編集部
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