不浄とされたネギやニンニク
禅寺の入り口に「不許葷酒入山門(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)」と石に刻んだ戒(いまし)めをよくみる。葷(くん)はネギ、ニンニク、韮(にら)のような臭い匂いのある野菜のことで、このようなものは、不浄であり、また酒は浄念を乱すため、それらを口にした者や、持った者は、清浄なる寺門内に入ることを許さない、と戒めているものである。
だが日本人は、仏門外では葷物(くんもつ)を実によく食べるし、その特性を知りつくしていて、上手な料理の方法を持っている。
シベリアから渡ってきたネギ
その中で、最も多い消費量を誇っているのがネギ葱(ねぎ)類である。ネギの原産地はシベリアとされるが、これを自国のものとして、毎日の料理に欠かすことのできぬ存在に育てあげてきたのは日本人である。
中国には、周代(紀元前2世紀ごろ)の『爾雅(じが)』にネギのことを「本白く末青し」と記載しているが、今日では、その消費量は日本の足元にも及ばない。また、ヨーロッパでもサラダの香辛料として、少量栽培された程度である。
わが国では『日本書紀』に「秋葱(あき)」の記載があり、天皇即位の大嘗会(だいじょうえ)には神饌(しんせん)のひとつとして供されている。(続く)
小泉武夫