日本酒、漬け物、刺身も区別されている
玉露や煎茶は、味や香りの濃さに「本音」の感があるのに対し、番茶は淡さで「建前」の感覚。古漬けが「重さ」なら、浅漬けは「軽さ」。日本酒には辛口があれば、甘口があって、辛口は味にキレのよさがあり「軽さ」を持ち、甘口には芳醇なコクが豊かで「重さ」が良い。
焼酎にも、はっきりした重さと軽さの区別がある。旧式蒸留機で蒸留した乙類は、味も香りも高く濃型。これに対し、新式蒸留での甲類は水とエチルアルコールだけという単純な構成なので淡型。刺し身にさえ、日本人は重さと軽さを区別する。赤身の刺し身は味も色も濃く、口に入れると、口中がうま汁で充満するから濃型。白身は味も色も淡泊で、軽く上品な舌ざわりは淡型である。すき焼きとしゃぶしゃぶも、鰻(うなぎ)の蒲焼きと白焼きも、塩辛の黒造りと白造りも、重さと軽さの対比物なのである。
日本人ならではの食の感性
このように、日本には、同じ食材や食べものの中に、互いを相対比させながら、重さと軽さの双方で食する食性があるのは、実に面白いことである。この粋さの背景には、ただの混じり気のない湯さえも「白湯(さゆ)」といったり、水の量も多くして、米を炊いた時の糊状のものを「重湯(おもゆ)」などという、日本人ならではの表現感覚が存在しているためであろう。このことはまた、日本人特有の対比文化に影響されたところが大きいためと思われる。