平安時代の素干品
世界で一番硬い食べものは何かと問われれば、大抵の日本人はおそらくわが国の鰹節と答えるだろう。まさにその通りで、これに勝る堅強(けんきょう)な食品はほかに見当たらず、日本人は世界1硬い食品を発酵によってつくった民族なのである。
その鰹節の原形は平安時代の『延喜式(えんぎしき)』にみられる「鰹魚(かたうお)」という素干(すぼし)品の保存食に当たるが、今のような燻製(くんせい)品が考案されたのは江戸時代の延宝二年(一六七四)である。
発酵食品の理由
鰹節の製法は、原料鰹を三枚に卸し、その卸し身を煮籠(にかご)に入れて一時間半ほど煮たあと冷やす。これを骨抜きしてから底を簀(す)の子張りした木の箱に四、五枚を重ねて入れ、焙乾(ばいかん)室で堅い薪(まき)材を燃やして燻(いぶ)し、乾燥する。この焙乾のやり方はまず、八五度℃で約一時間燻し、これを五日間続けた後、火を弱めて、さらに数回繰り返す。そして最後に三、四日間日光で乾燥すると荒節(あらぶし)が得られる。この荒節を舟形に整形削りをすると裸節(はだかぶし)となり、これを四、五日間日光に乾かしてから常に使用しているカビ付け用の樽や桶または箱に入れて蓋をする。この使い古された容器内には、麴カビの胞子が多数生息しているから、裸節を二週間もそこに入れておくと、その表面にはカビが密生する(一番カビ)。これを取り出して胞子を刷毛(はけ)ではらって日干しし、再びカビ付け容器に詰める。二週間ほどして、またカビが密生する(二番カビ)から前と同様の操作を繰り返し、こうして三番カビ、四番カビを付け、最後に十分に乾燥して製品が出来上る。なおここに活躍するカビは、麴カビの一種 Aspergillus repens(アスペルギルス・レベンス) である。
(続く)