賢者が選ぶ非常食(9)干物【小泉武夫・賢者の非常食(76)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.03.20

 いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。

 これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。

 

 干物(ひもの)大国、日本

 植物を乾燥させると「乾物(かんぶつ)」といいますが、魚類を干したり乾燥したものは「干物」といいます。干物の製法は、素干し、煮干し、焼き干し、調味干しと多彩です。

 干すことによって水分を減少させると、微生物の繁殖が抑えられるので、魚介類を腐敗させることなく長く保存できるようになります。また、栄養成分は飛躍的に増加します。このため干物は日本人が大変古い時代から重用(ちょうよう)してきた食品です。太古の昔、干物を初めて作った民族はわかっていませんが、現在干物の種類の数や生産量、消費量の多さで日本の右に出る国はありません。まさに日本は干物王国なのです。そして古くからの保存食は、今日では貴重な非常食となるわけです。

 素干しは、魚をそのまま乾燥させるもので、干物の中ではいちばん古い歴史を誇っています。よく素干しされるのは、イカ(するめ)、サヨリ、身欠き(みがき)ニシンなどです。

 茹でてから干すのが煮干しで、その名の通り出汁を取る煮干しに代表されます。カタクチイワシが一般的ですが、マイワシ、アジ、サバ、トビウオ(アゴ)なども煮干しの材料になる魚です。

 塩干しは、塩を振ったりすり込んだりして干すもので、干物といえばこの塩干しを思い浮かべる人が多いでしょう。塩干しの中でも丸干しになるのが目刺しで、開きになるのがアジ、サバ、サンマ、イトヨリ、キンキなどです。

 焼き干しは、どちらかというと淡水系の魚で作られます。アユ、ヤマメ、フナ、ウグイ、ワカサギ、ハゼなどを串に刺して焼き、乾燥させたものです。

 調味干しは、味醂(みりん)をベースにした調味液に下こしらえした魚を漬け、乾燥させてから艶(つや)出しを行い、白胡麻(ごま)をまきます。こうするとイワシ、サンマ、カワハギ、サバなどの味醂干しになり、焼いて食べると大変美味です。

 調味干しのバリエーションに、くさやの干物があります。発酵した塩魚汁という天然調味液にムロアジやトビウオを漬け込み、それを干してつくる深い味と独特の匂いを付けた干物です。干すことによって食べものを保存する民族はいくらでもいますが、魚の干し方にこれほどの種類があるのは日本だけでしょう。イワシ類の稚魚や仔魚(しぎょ)を干物にする場合、煮熟(しゃじゅく)してから水切りし、放熱するまでは同じですが、そのまま出荷すると「釜揚げシラス」、軽く干すと「シラス干し」、しっかり干して乾燥させると「ちりめんじゃこ」と呼び名が変わります。さらに、水洗いしただけの生の原料を簾(すだれ)に干して乾燥させた「タタミイワシ」というバリエーションがあるといった具合です。

 

 救荒食にオススメの干物は?

 平安時代の貴族の饗宴(きょうえん)には、多彩な削り物が登場します。当時は、干物を削って食べることが多かったのです。現在では流通経路や冷蔵庫が発達しているので、削るくらいにまで乾燥させるのは、鰹節(かつおぶし)くらいになりました。そのほかの干物は水分を残し、日保ちよりも味を優先するので、一夜干しなどが人気です。

 保存食となると、一夜干しよりもしっかり乾燥させた干物が適しています。あとは好みの問題なので、日本が誇る多彩な干物文化の中から、好きなものを選んでストックしておきましょう。保存用に取り分けるときは、傷(いた)まないように密封してください。

 身欠きニシンやするめといった干物が非常食のなかから出てくると、救荒の食卓が一瞬、ほのぼのとした温もりで包まれることでしょう。

小泉武夫

 

 

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この記事を書いた人

編集部
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