暮らしの知恵や遊び心が詰まった夏土用
大阪ではすでに夏土用の期間(夏土用の入り:7月20日/夏土用の明け:8月7日)に入っている。ゆえに陽射しは少なく、曇天・雨天続きで、気持ちがまだ夏気分に切り替えられていないのに、すでに恐ろしいほどの蒸し暑さが押し寄せてきて、ぐったりの今日この頃。こんな時は、「黒い食べもの」で元気をつけよう。
現在では土用は夏だけにあるものと思われているが、1年に4回ある。
立春、立夏、立秋、立冬それぞれの前の日までの18日間を指し、春土用、夏土用、秋土用、冬土用と呼ばれる。これは中国の陰陽五行から決められたもので、万物は「木火金土水」の5種類の元素から成るとされ、四季にも一つずつ割り当てると、春=木、夏=火、秋=金、冬=水となり、残りの「土」を四季の終わりに18日間ずつ配置して、「土用」とした。
土用は季節の変わり目にあたり、次の季節への準備期間とされ、身体の調子を崩しやすいともいわれている。この中で夏の土用だけが有名になったのは、「土用の丑の日」の鰻を食べる行事があるからだろう。
食べること以外でも夏土用には、「土用干し」といわれ、梅を干したり、書物や衣類に風を通す習慣が今でも残っている。
また、それぞれ夏の土用に、海岸に打ち寄せる大波を「土用波」、東風が吹くことを「土用東風(どようごち)」、風が全く無く、海が穏やかになることを「土用凪」、この日の天気で秋の豊凶を占ったという、夏土用第3日目を「土用三郎」と呼ぶなど、自然現象についてもいろいろと名前があるのも面白いと思う。
夏土用の「黒い食べもの」
昔から暑さのため食欲減退で身体が弱る夏土用には、夏負けをしないためのいろいろな習わしが伝わっている。
まず、「黒いものを食べると夏負けしない」という謂われがある。
土用の丑の日の鰻も黒い食べものとされ、本来は丑の日だけではなく、夏の土用に鰻を食べることだった。
昔から黒いものは魔除けになると信じられていたそうで、魔や邪気などがやって来るのは鬼門である「丑寅(=北東)」の方角と考えられていたので、「丑の日に、魔除けの黒いもの」を―ということになったとか。これは「黒いもの食べもの信仰」ともいわれていたようだ。
夏土用に食べると良いとされている黒い食べもので有名なのが、厄除けによい小豆を使った「土用餅」。こしあんで餅や求肥を包んだ、ころんとしたあんころ餅は、いくつでも食べられてしまう素朴で優しい味わいだ。
また「土用しじみは腹薬」ともいわれてきた栄養豊富な黒いしじみも夏バテの強い味方で、土用丑の鰻丼に添えられることも多い。
大御所の「土用の丑の日の鰻」
「土用の丑の日」に鰻を食べる風習は、江戸時代の蘭学者・平賀源内の「本日 土用の丑の日」との貼り紙説が最も有名だが、夏バテに鰻を食べることは、もっと古い時代から行われていた。万葉集にある大伴家持が友人に詠んだ「石麻呂に吾もの申す夏痩せによしと云ふものぞ鰻とりめせ」の歌は有名だ。
土用丑の「う」のつくもの
昔から「“う”しの“う”なぎ(丑の鰻)」にあやかって、夏負けによいとされる「う」のつくものとして食べられてきたのが、「瓜」「梅」「うどん」。「瓜」は、鰻と相性抜群の奈良漬。
私は奈良漬が大好物なので、冷酒の酒肴として、これが欠かせない。シャリシャリと1/2本ほどは食べてしまう。ま、鰻丼を食べる前のお楽しみ絶品である。
「梅」はもちろん夏バテといえば!の梅干。前年に漬けた梅酒瓶の中に琥珀に輝くトロリ梅を、カリカリかじるのも忘れないのだ。
「うどん」は、梅干と紫蘇をのせて、冷やし梅うどんでツルツルルン。
ここへ、近年「う」のつくものに取り入れられている「牛」を、じゃんじゃん焼肉にして、まとめてビールで、プハァ~。
そして夏土用が明ける頃には、夏バテどころか、夏太りしてしまうのが毎年の習わしとなっているのである。
歳時記×食文化研究所
北野智子