正月のエビのちらし寿司【小泉武夫・新春エッセイ(2)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2019.01.02

エビは長寿につながる縁起物

 エビ(海老)は長寿につながる縁起ものとして、正月料理には必ず用いられてきた大切な食材である。さらに、蒸したり、焼いたり、煮たりして熱を加えると、実に鮮やかな紅白の色彩を浮き上がらせるので、ここにも縁起の良さが宿ることになる。そのため、地方によっては正月にエビを使ったちらし寿司をつくり、先ず神棚や仏壇に捧げてから家族全員でそれを食べる風習は少なくない。とにかくその年最初の祝日であるから、寿司もできるだけ華やかな色合いのものに仕上げるのも大切とされている。

 その一般的なつくり方は、すし飯(熱いご飯一人前に酢、砂糖をそれぞれ大サジ半分、塩少々を加えて混ぜ合わせたもの)に、塩茹でしたクルマエビ(頭と尾と殻を外した身を適当な大きさに切ったもの)、 イクラ、カマボコ(紅白の板カマボコを適当な細かさに切ったもの)、グリーンピース(缶詰でよい)、金糸卵(卵焼きを繊切りしたもの)、繊切り紅ショウガ、おぼろを好みの量加えてから静かに混ぜ合わせ、上から繊切りした海苔をパラパラまいて完成。

 このちらし寿司は色彩が美しく、クルマエビの紅白模様が松の内の気分を大いに高めてくれる。これを椀に盛り、熱い吸い物を脇にしていただくのである。酢飯の甘さを伴った酸味に具の感触、とりわけクルマエビのコリコリ、イクラのプッチン、カマボコのシコシコ、グリーンピースのポクポクなどが絶妙だ。何よりクルマエビの存在感が大きく、上品な甘みと優雅な美味は寿司の味全体を支えているのである。

 

クルマエビの塩焼きは超特級の美味

 一方、正月には頭付きのエビの塩焼きも出されることが多い。この塩焼きのクルマエビも超特級の美味である。焼き上がった色は天然美食そのもので、鮮やかな赤色と対照的な白とのコントラストは慶賀に張られる紅白の幕そのものである。先ず頭部を胴体から引きちぎり、頭部の切れ目のところに口を付けてチュウチュウと吸うと、中からエビみそ(正確には肝膵臓)がドロドロと出てきて口の中に広がる。量はわずかであるがコクのある濃厚なうまみは絶妙で、これぞ魔性の味か、と思ってしまうほど食べる人を虜にするのである。

 身は殻を外してから口に入れて噛む。すると歯と歯に押し潰される時、ポクリといった感じの音がして、しばらく噛んでいくと絶妙の甘さを伴った優雅なうまみがピュルル、ピュルルと湧き出してくるのである。

 エビを「海老」と書いて古来から吉事に使うのは、腰を曲げるほど長寿を保つ老人のようであり、またそのヒゲ(触覚)や尾をピンと張れば、壮者を思わせるさっそうたる姿になるめでたさにあるという。今年もよい年でありますように。

小泉武夫

(初出・『ツーバイフォー』Vol.216)

 

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