食べることの意味を子供たちに伝える
以前、私は小学一年生の教室で食育の講義をする機会がありました。そのとき私が教えたのも、もちろん食べることの意味についてです。
私は生徒の一人に、「今日、朝ごはんは食べましたか?」と尋ねました。聞かれた生徒は、「はい」と答えます。「なぜ、ごはんを食べたの?」と質問すると、「お腹がすいていたから」と言います。「食べたごはんはどうなると思う?」と尋ねると、「ウンコになる」と、じつに子どもらしい答えが返ってきました。
「食べることの意味を教えるのは、そこからです。「じゃあ、君はウンコをつくるためにごはんを食べているの?」と質問します。すると生徒は、「アレッ? 違うぞ」という顔になって考え込みますが、答えが見つかりません。そこで私は生徒の両手を取って、右手で私の額を、左手で水の入ったコップを触らせます。そして、「どっちが温かい?」と聞くと、生徒は「先生のおでこ」と言います。体が温かいことに気づいてくれたら、しめたものです。
「先生も朝ごはんを食べたけど、ごはんを食べると体から熱が出て温かくなるんだよ」
「小学一年生に「エネルギー」という言葉はまだ難しいと思いましたから、私は「熱」に置き換えて説明を始めます。
「君は蒸気機関車を知っているね? 蒸気機関車は石炭を食べて熱を出すんだ。その熱が長い長い貨物列車を引っ張る力になるんだよ。人がごはんを食べるのも、体の中に熱をためて、その熱で動いたり、力を出したりするためなの」
ごはんを食べるから人は生きていられる
そこまで私が言ったとき、女の子の生徒が手を挙げました。そして、こう言ったのです。
「この前、おばあちゃんが死んじゃったんだけど、お別れのとき、おばあちゃんのほっぺた を触ったら冷たかった」
私は、いいことを言ってくれたなと思い、こう続けました。
「そうだね、ごはんが食べられなくなったら、体は冷たくなるし、動けなくなってしまうよね。人間は、体に熱をためて元気に動くためにごはんを食べるの。みんなが走ったり、楽しく遊んだりできるのも、きちんとごはんを食べているおかげなんだ。ウンコをつくるために 毎日ごはんを食べているわけじゃないんだぞ」
食べることの意味――それを大人が子どもたちに教えることから、食育は始まるのです。
小泉武夫
※本記事は小泉センセイのCDブック『民族と食の文化 食べるということ』から抜粋しています。
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