紙の食べ方
みなさんは、紙餅という食べものをご存じでしょうか。これこそ最大の救荒食品と言えるだろうと思います。紙餅というのは、文字通り紙の餅です。江戸時代の宝暦14(1764)年に出された『料理珍味集』という書物に書いてあります。
紙餅は、使い古した奉書紙(ほうしょがみ)が原料になります。奉書紙というのは、手紙などを書く和紙で、反故(ほご)になった奉書紙はこよりにしたり、破れた障子を張るときに使っていました。それを食べてしまおうというのです。
作り方はこうです。使い古した奉書紙を3日ほど水に浸けておきます。それを取り出してよく水分を切り、まな板の上に置いてくず粉をかけ、味噌を加え、包丁で叩いて混ぜます。できたものを適当な大きさに切って丸め、天日に干すと紙餅の完成です。食べるときは、味噌汁に入れて煮て食べます。
救荒食品は健康食品
『料理珍味集』には、「これを食する者、年中病気を除くなり」と書いてあります。和紙の原料はコウゾで、これは繊維質そのものです。繊維を食べることによって腸管へ刺激を与え、蠕動(ぜんどう)運動を活性化し、腸内細胞を増やして免疫力を高める方法を、江戸時代の日本人は体験的に知っていたということでしょう。
当時も便秘に苦しむ人はいたと思われますが、整腸剤のない時代にあって、紙餅は快便の素だったに違いありません。まさに救荒食品と健康食品と双方の効果を合わせ持つ究極の食べものと言えるでしょう。
大切なことは、昔の日本人が「こんなものまで食べて生き延びたのか」という事実を知っていただくことです。そのことを考えれば、物質が豊かな時代を生きる我々が、どんなことをしても生き延びられないわけはありません。先人の苦労を知るために、救荒食品のシンボルとして紙餅の存在を覚えておくことには意義があります。
小泉武夫