いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。
これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。
戦時中に重宝された干し芋
干し芋は茹(ゆ)でたサツマイモを天日で乾燥させた保存食です。
日本には、サツマイモ、ジャガイモ、ナガイモ、サトイモなど多彩なイモの食文化があります。飢饉(ききん)のときにイモが大活躍したように、非常食として乾燥芋を活躍させましょう。
千し芋の歴史も古く、江戸時代後期に現在の静岡県御前崎(おまえざき)市で開発されたといわれています。 すでに二〇〇年弱もの間、日本人に親しまれてきた民族食のひとつです。
明治時代の日露戦争の際には保存食として干し芋を日本軍が採用し、旧満州の戦場に送られたことでも知られています。当時は「軍人いも」と呼ばれたそうです。当時の干し芋は今よりももっと保存性を重視し乾燥度合いが高かったため、戦時下の非常食として大変優れた保存性と栄養価を兼ね備えていたのです。現在の干し芋は当時のものよりしっとりとしていて甘みも豊富なので、普段からおやつとしてストックしておくと、いざというときの非常食として重宝することでしょう。
白い粉の正体は?
さて、現在の干し芋の一般的な形状は薄切りにした半生状で、もちもちとした食感を残すために水分を完全に乾燥させずに商品化するのが特微です。そのため、カビが生えることがあり、開封してからは冷蔵庫で保管しなければなりません。
市販の干し芋は褐色(かっしょく)ですが、表面には通常白い粉が吹いています。これはカビではなく、イモの分解された糖分が結晶化したもので、食べても害にはなりません。しかし、半生状態なのでいつかはカビが生えるのが欠点です。長期保存するには密閉性の高い包装が行われた商品を購入するか、自分で完全密閉できるビニール袋などに移さなければなりません。
干し芋のお得で美味しい食べ方
干し芋は、栄養面で優れた食品です。アルカリ性食品で、整腸作用のある食物繊維とビタミンやミネラルを豊富に含んでいます。また、コレステロールを含まない食品であることも、人気のある理由です。
干し芋の産地は全国に点在していますが、流通しているものの大半は茨城県で生産されています。市販の干し芋はやや高いのが難点ですが、中には切り落としなど形の揃(そろ)わないものを集めて袋詰めにした商品もあり、これは半額ほどで売られているのでお得です。非常食にするのなら、形は二の次でいいのかもしれません。
食べるときは、軽く火で焙(あぶ)ったほうが柔らかくなるのでお勧めです。風味も増すので、非常時でも火を焚くことができれば、表面を軽く焼いて食べましょう。糖分が多いので、元気が出る非常食のひとつです。
小泉武夫