「国境の街」根室
前回につづき、北海道が舞台。道東の中標津(なかしべつ)空港から約80km。バスで2時間以上かけて着いたのが本土最東端の根室である。北方領土の島々を間近に望む「国境の街」。市内にはロシア語の案内板があちこちで見られる。東に位置しているだけに日本で一番早く朝日を見ることもできる。なんと夏至のころには午前3時半過ぎから白々と夜が明けるそうだ。沖縄の那覇より2時間近くも早い。
太平洋とオホーツクにはさまれた根室。特産・花咲ガニのほか、毛ガニ、タラバガニ、ウニと高級な魚介類が水揚げされる。日本有数の水揚げを誇るサンマのほか、サケ・マス、オヒョウ、コンブもある。まさに日本有数の水産王国である。
この街にももちろん回転ずし店はあり、家族連れに人気だ。「根室初」という店をのぞくと、サーモンの3点盛りのほかに、お得な3点盛りセットとして「ブルースリー」があった。店員に聞くと、釧路産のしめさば、釧路産の真イワシ、そして根室産のサンマだという。どれも色は青っぽい(ブルー)。それが3点(スリー)並んでいるので、「ブルースリー」になったという。たしかに「ブルース・リー」ではない。
味は意外にさっぱりしていた
さて、この日の夜もあちこち歩いていたら、「歯舞産ブリ」を出している居酒屋に出会った。歯舞と書いて「はぼまい」。根室市内の町だが、根室半島の先の方にあり、太平洋に面している。
それにしても歯舞産ブリというのは珍しい。ブリと言えば日本海や富山湾が有名だが、海水温の上昇もあり、北海道へと北上しているのだという。テレビニュースでそのことは知っていたが、本土最東端の根室、しかも歯舞でとれるとは……。
数年前には知床半島の羅臼沖での定置網漁でブリが大量にとれたことがあったそうだ。もともと北海道ではブリを食べる習慣がなく、高級魚という認識もまったくない。とれても市場では高い値段では売れない。東京のスーパーで最近ブリが安くなっているのも北海道産のブリが出回っているからなのだろうか。
さて、歯舞産のブリ。味は意外にさっぱりしていた。養殖物との違いはここにあるのだろう。地元の人が言う。
歯舞産のブリ
「養殖物はメタボ体質。脂分で身が白っぽい。一方、天然ブリは筋肉質。薄いピンクみがかった色合いだよ」
なるほどメタボ体質か。その瞬間、肥えてしまった我が腹回りをさわってみた。
豪流伝児(ごうるでん・がい)/東京・新宿ゴールデン街をねぐらに、旅と食、酒を人生の伴にするライター。