「ここまで来たらサハリン地ビール」
2013年7月。日本最北の地、北海道稚内市。
晴れた日には海峡の向こうにロシア連邦サハリン州(旧樺太)の島影が見える。さすが「国境の街」。空港の到着ロビーにも目を引く看板がある。ニッコリほほえむロシア美女。「ここまで来たらサハリン地ビール」とキャッチコピーが書かれている。
サハリンの地ビールの広告らしい。
話を伺うと、サハリンから地ビールを輸入販売している市内のスーパーが「ロシアとの国境の町、稚内をもっと宣伝したい」と2003年8月に設置した。赤を基調にしたデザインで縦76cm、横3.36m。
契約したのはその3年前の2000年。ユジノサハリンスク市のビールメーカー「コロス社」が相手先だった。国営ビール工場だったが、ソ連崩壊後、民間会社となり、ドイツ人技術者の手で製造されるようになったそうである。缶が工場側の都合で製造できなくなり、瓶ビールに変わった。アルコール度は4.5%。
「ラーメンは北へ行くほどうまい」
さて飲んだら何か食べよう。稚内には宗谷海峡で捕れたタコを名物にした「タコシャブ」がある。が、私の一押しは塩ラーメン。
私は市の中心地へ車で向かった。初夏というのに、半袖では鳥肌が立つほどの寒さ。持ってきた上着を羽織る。曇天。宗谷海峡から吹きつけてくる海風にカモメが待っている。気温7〜8℃。東京より20℃も低い。
JR稚内駅の近くで「ラーメンは北へ行くほどうまい」とかかれた看板を目にした。この看板もなかなか秀逸である。「北へ」というのなら、ここは日本最北の街。うまいに間違いない。
地元の人に聞くと、「塩ラーメンがうまい」という。札幌系に代表される、こってりとしたみそラーメンではないのだ。理由はよくわからないが、たしかに同じ港町の函館でも塩ラーメンがうまい。でも釧路や根室など、北海道東部では醬油ラーメンが主流。考えれば考えるほどわからなくなってしまうが、それだけ北海道が広いということだろう。
地元客でにぎわう「K横丁」に入る。カニ屋さんが昼間だけ営業しているラーメン店とあって、寸胴鍋に惜しげもなくカニが入っている。店の主人に尋ねると、毛ガニらしい。カニのエキスがたっぷり出るだろう。
スープは優しい味。ダシのうまみが最大限に引き出されている。寒さが一段と厳しくなる1月や2月に来て食べたら、身も心も芯まで温まるだろう。北の旅人を癒やす逸品に間違いない。
さすがに北海道最北の地。豊富な海の幸や名産のタコシャブも観光ホテルのレストランにはあるが、その土地の人たちが普段から食しているのを味わうのも旅の醍醐味。「ラーメンは北へ行くほどうまい」。看板に偽りなしである。稚内の塩ラーメン、一度お試しあれ。
豪流伝児(ごうるでん・がい)/東京・新宿ゴールデン街をねぐらに、旅と食、酒を人生の伴にするライター。