奈良時代、平城京へ赤米を納めていたと伝えられる福井県越前市で、地元の人々が地域の活性化にしようと赤米を使った甘酒やスイーツづくりに取り組んでいます。縄文時代に日本に伝わったとされ、米のルーツともいわれる赤米は、調理が難しいことなどもあり、やがて白米に取って代わられました。しかし、最近はビタミンやミネラルが豊富なことから赤米の注目も高まっています。関係者は「息の長い取り組みで盛り上げていければ」と期待します。
赤米を使った加工品づくりに取り組んでいるのは、越前市の南中山地区です。30年ほど前、奈良県の平城京の長屋王の邸宅跡から発掘された荷札の木簡に、「和銅八年」(715年)に「丹生郡中津山里」から赤米の献上があったと記されていました。現在の南中山地区にあたるそうです。
木簡に記された年から1300年目となった昨年、同地区では記念事業として地元で栽培した赤米約90キロを薬師寺に奉納しました。大人たちはリュックに分けて約200キロの道のりを自転車で運び、地元の市立南中山小学校の5年生30人も自分たちで育てた赤米を届けました。
赤米づくりに取り組んでいる南中山小学校では毎年、年末に収穫を祝う集会を開いています。洋菓子店「くになかのケーキ屋さん」を営む冨田佳子さん(53)は、収穫した赤米を使って、集会に出すまんじゅうやクランチチョコなどをつくってきました。冨田さんのお店では、赤米をポン菓子にした「赤米ぱふ」(200円・税込み)、赤米の米粉を使った「どら焼き」や「ロールケーキ」のほか、赤米を三分精米した「晴れの日ごはん」(300g・税込み450円)などを販売しています。「地元の赤米100%」にこだわったスイーツは、小麦粉アレルギーの子どもらにも好評だそうです。
どら焼き(1つ150円・税込み)
ロールケーキ(1本500円・税込み)
冨田さんは、JR福井駅西口に今春開業した再開発ビル「ハピリン」の福井市観光物産館「福福館」に、「晴れの日ごはん」や赤米ぱふ、焼きチョコを納入することになり、「『赤米の里』として南中山が注目されるようになれば、もっと色々な食べ物が求められる」と考えたそうです。
米麹(こうじ)を使ったパンもつくっている冨田さんは昨夏、米麹を卸してもらっていた同市の「かせや味噌」の5代目、鈴木雅史さん(40)に、「赤米で麹をつくることができないか」ともちかけました。鈴木さんは「赤米はもち米で粘り気が強いので、麹菌が均一に混ざりにくく、ムラができやすい。温度管理や麹菌を混ぜるのに手間と工夫が必要になります」と話します。
今年2月、出来上がった赤米の麹を使ってパンを焼いてみると、「小麦粉のしっとり、ふわふわした食感に、もち米由来のモチモチ感も加わった」(冨田さん)。4月から「赤米麹入りテーブルパン」として売り出し、人気を集めているそうです。
「かせや味噌」の鈴木さんは同店で製造する「あらごし甘酒」に、この赤米麹を入れてみたところ、控えめな甘さとあっさりした口当たりに、赤米のつぶつぶとした独特の食感が加わったそうです。4月から「赤米麹入 あらごし甘酒」(税込み600円)として販売を始めました。
「赤米麹入 あらごし甘酒」
冨田さんは近隣のお店にも呼びかけ、冨田さんの店のテーブルパンを使ったサンドイッチ、赤米を使ったコロッケや赤米の弁当などがこの春から売り出されました。「福福館」には、こうした赤米を使った食品が楽しめるお店を紹介したチラシを置いたそうです。
冨田さんは「健康食品としての赤米への注目も高まっている。越前市に赤米を使った食べ物や甘酒があることを知ってもらえれば、足を運んでもらえるきっかけにもなります。新商品の開発など地道な取り組みを続け、需要を広げて、この『赤米の里』で継続的に赤米の生産を続けていけるようにしていければ」と話しています。
問い合わせは「くになかのケーキ屋さん」(0778-42-1070)、「かせや味噌」(0778-42-0040)へ。