【小泉武夫・食百珍】世界一の茸(キノコ)王国

カテゴリー:食情報 投稿日:2016.10.25

日本人の秋の楽しみといえば・・・

日本は山紫水明の国であるから、山や川、海にはさまざまな美味な物が自然にわきでてくる。秋の味覚の代表であるキノコも、わが国では実に古い時代から食べられてきた食品のひとつである。日本は四季がはっきりしていて、規則正しく春夏秋冬が来るうえに、世界の平均降雨量の約一・八倍も雨の多い多湿の気候であるから、この風土条件は、世界一のキノコ王国を誕生させた。

クヌギ、コナラ、エゴノキ、アカシデ、アカマツ、カラマツ、ブナ、ミズナラ、シイ、カシなどの雑木林や松林が列島を縦横しており、キノコが生育しやすい豊かな土壌が日本を包み込んでいるのである。そのため、日本に生育するキノコの種類は圧倒的に多く、実は四千種もあるといわれており、食用とされているものだけでも約百八十種ある。

『日本書紀』の仲哀天皇の条に栗茸(クリタケ)狩りの記載があるから、すでに大昔からキノコ狩りは日本人の秋の楽しみのひとつであったようだ。松茸、椎茸、クリタケ、シメジ類、ハツタケ、マイタケ、ナラタケ、ナメコ、エノキタケなど、味や香りが大変上品なのも、日本のキノコの特徴である。

驚くべき日本人の食の知恵

日本人のキノコ食には歴史と伝統があるから、その栽培や料理、加工などにも数々の知恵がある。

まず栽培法。世界に先がけて慶安三年(一六五〇)ごろには、すでに椎茸の榾木(ほたぎ)栽培が今の大分県、宮崎県、三重県、静岡県で行われている。昭和十年(一九三五)ごろからは、種菌を接種しての椎茸の人工栽培も始まったが、このころから同時に椎茸以外のキノコについても人工栽培の研究が行われだし、その成果は今日、エノキタケ、ナメコ、ハツタケ、マイタケ、シメジなど二十種近いキノコが、オガクズや人工床で栽培されているのをみてもよくわかる。多種類のキノコを、このような手法により多量に生産している技術力は、世界中でもわが国が断然トップである。

日本人のキノコの保存法も優れている。椎茸は天日で乾燥して栄養価値まで増加させて保存し、クリタケやシメジは塩漬けにして保存され、食べたい時に塩出しして使われる。ナメコは缶に詰められて半永久的に保存でき、松茸や椎茸、シメジは佃煮にしても長く保存が効くから、即席の飯のおかずや酒の肴として、大いに重宝されている。

料理の仕方に至っては、もういかなる国にもその追随を許さない。松茸は、その香味を決して逃すことのない調理法でことごとく賞味するし、飯とよく合うキノコは炊き込みご飯として味わい、吸いものに似合うものは上品な椀ものとして喜ばれ、油に負けぬ味のものはてんぷらにもする。

このように日本人は昔から、キノコを生食、焼く、煮る、蒸す、炊く、揚げる、和える、茹でる、炒めるなど、あらゆる調理法によって、それぞれのキノコの持ち味を生かす料理の知恵を持っている。

小泉武夫

 

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編集部
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