誕生祝にお酒を飲んだ日本人
1度しかない人生なので、昔はその折り目折り目には厳格であり、格調の高い儀式があった。この場合でも酒は欠かせないものとして登場してきて、例えば誕生祝いの酒は、今日では影が薄らいだが昔は盛んであった。子供が誕生した家では、まず神棚や仏壇に酒を供えて安産を感謝し、向う三軒両隣と区長、近い親戚たちが誕生日から一ヵ月くらいの間の吉日に集まって、生まれた子の将来に幸多かれと祈りながら飲んだ。そして例えば、中山寺から安産のための晒(さらし)を受けてきたならば、新しい晒と酒を添えて寺に礼詣した。
なぜ雛祭りでお酒を飲むのか
だがむしろ、誕生の祝いよりも初節句のほうが、酒祝いとしては盛大であった。乳幼児の死亡率が高かったから、よけいにそうだったのであろう。
雛祭りは三月三日を上巳(じょうし)の節句として、婦女子供の大切な行事であったが、とりわけ初節句ともなると、客を招待して賑やかに酒宴を張ったものである。
雛壇の前で女児から大人に至るまで、一同揃って白酒(しろざけ)に舌鼓を打ち、和気藹々(あいあい)のうちに夜を過した。初節句や雛祭りは、女児の情操教育上意義深いことではもちろんであるが、同時に女児の披露紹介の意味も込めてのセレモニーである。さらに一家団欒、親戚結束、友人親睦の意味合いも、初節句にかこつけて、酒を通してしっかりと図られているのである。