「突撃! 隣のお味噌汁 」作戦とは
日本の食卓には欠かせないお味噌汁。具だくさんのお味噌汁は栄養バランスにも優れた一品ですが、塩分の取りすぎにならないかも気になるところです。食生活の改善の一環として、自治体でも減塩に向けた啓発活動に取り組んでおり、成人一人あたりの食塩摂取量が日本一の岩手県では、家庭でつくるお味噌汁の塩分を測る「突撃! 隣のお味噌汁」作戦を2014年から進めています。
塩分摂取量が全般的に高い東北地方でも岩手県の摂取量は多く、2012年の国民健康・栄養調査では、成人の一日あたりの食塩摂取量が男性12.9g、女性11.1gとともに全国1位となりました。また、2010年の国の死因別死亡率調査では、脳卒中(脳血管疾患)で亡くなった人の割合が男女ともに全国最悪でした。
こうした状況に危機感をもった県は2014年、脳卒中予防のための県民会議を立ち上げ、食生活を含めた生活習慣の改善への取り組みを進めてきました。毎月28日を「いわて減塩・適塩の日」として、スーパーなどの協力で減塩・適塩メニューの試食を行ったり、減塩レシピ集の配布などをしたりしているそうです。
「突撃! 隣のお味噌汁 」作戦もその一環として始まりました。全33市町村でボランティアの主婦らによる食生活改善推進員たちが、各家庭を訪れるなどして代表的な家庭料理である味噌汁の塩分濃度を測定。塩分摂取の全体的な傾向を把握するとともに、各家庭に減塩の大切さを意識してもらうのが目的です。
2年目となる2015年度の結果がこのほどまとまりました。各家庭を訪問したり、つくった味噌汁を持ち寄ってもらったりして、計4681世帯の味噌汁を測定。濃度が「標準」「薄味」と判定された家庭が全体の97%を占め、塩分濃度が1.2%以上の「濃い」とされた家庭は3%で、前年度(「標準」「薄味」が95%)に続き、減塩が浸透している様子がみられました。県全体の平均塩分濃度は0.71%でした。
岩手県健康国保課の担当者は「減塩に向けた取り組みは長らく続けてきましたが、2つの国の統計が出たこともあり、いま一度食生活の改善を進めようと力を入れています。地道な普及・啓発を進めていきたい」と話しています。
「日本一の長寿県」長野県を参考に
岩手県が参考にしているのが長野県の取り組みです。2012年の国の調査では、食塩摂取量が男女とも岩手県に続いて全国2位。ですが、日本一の長寿県でもあります。
長野県は海に面していなく冬場は雪が多いため、塩漬けの魚や野沢菜など塩味をきかせた漬物、塩分の多い信州味噌の味噌汁を食べることが塩分摂取量の高さにつながってきました。
1960年頃から脳卒中による死亡が急増し、一時は全国ワースト1に。平均寿命の全国順位も男女とも大きく後退しました。危機感が高まった1980年頃から全県あげての取り組みが始まり、各地域の保健補導員や食生活改善推進員たちが各家庭を訪ね、「味噌汁は具だくさんを一日1杯」「漬物は小皿1杯に」と啓発活動に取り組みました。また、塩分の排出を促進すると県産の野菜を積極的に食べることも推進しました。2012年の国の調査では、長野県の成人一日あたりの野菜摂取量は男女とも全国1位です。
その結果、2010年の長野県の平均寿命は、男性80.88歳、女性87.18歳とともに全国一となりました。減塩運動が盛んだったころに現役世代だった人々が、現在の長寿日本一に貢献しているとみられています。
岩手県の担当者は「長野県の一人当たりの野菜の摂取量が多いことは、今後の行政や地域の取り組みの参考にしていきたい」と話しています。