食材としての可能性を秘めながら、これまでほとんどが飼料などに使われていたイサダが、発酵のチカラで新しい調味料に生まれ変わったという。強い旨み香味をもつ「イサダ魚醤」とは!?
“発酵”が掘り起こした価値
小泉マガジン編集部で「新しい魚醤が誕生した」という情報をキャッチした。魚醤とは、魚やエビ、イカなどの魚介に塩を加えて発酵させて作る調味料。世界各地に独自の魚醤があるが、タイのナン・プラーやベトナムのニョク・マムなどは日本でも人気が高い。また日本にも地方によっては魚醤の文化があり、秋田県のしょっつる、石川県のいしる、香川県のいかなご醤油が日本三大魚醤に挙げられる。
イサダ(ツノナシオキアミ)
新たな魚醤の原料となったのはイサダ。見た目はエビに似ているが動物性プランクトンの一種でツノナシオキアミだ。三陸地方ではイサダ漁が春の風物詩で漁獲量も豊富なのだが、これまでほとんどが釣りのエサや飼料として使われ、食用は1割程度に留まっていた。しかし、イサダは「エビよりもエビの風味をもつ」と言われる素材。何とか活用できないかということから、20年ほど前からイサダを煮干しに加工していた木の屋石巻水産(宮城県)と宮城大学食産業学部准教授の金内誠先生がイサダ魚醤を共同開発した。
香り旨み抜群の魚醤に
しょうゆ麹、酵母、乳酸菌などで発酵
イサダ魚醤は、原料となるイサダに塩、砂糖、醤油に使われる麹と仕込み水などを加えて50℃前後に加熱し、酵母と乳酸菌を加えて30℃で30日ほど発酵させて作る。
宮城大学・金内誠准教授
「イサダにしょうゆ麹と水を加えて加熱することで短期間に旨み成分のアミノ酸を十分に引き出し、臭みを出す原因となる細菌を防ぎます。また乳酸菌と酵母で発酵させることで、酵母のマスキング効果により魚臭が低減されました。イサダ魚醤には、心地よい芳醇な香気があり、酸味と旨みのバランスもよくなりました。官能評価では『市販のナンプラーよりも香気がよく、しょうゆと同等の旨みを有する』とのコメントもありました」(宮城大学・金内准教授)
イサダ魚醤
現在、イサダ魚醤はあるメーカーのめかぶパックに付属するたれの材料として出荷され、好評を得ている。
「イサダは、昨年は3万tほどの水揚げでしたが、バブル経済期には10万tあり、資源量としては豊富です。つまり、安定的に使えて環境への負荷もない資源なのです。これを有効に使え、しかも味もよいということで、嬉しく思っています」(木の屋石巻水産・松友倫人さん)
まだまだ発展の可能性のあるイサダ魚醤。全国の家庭の食卓に上る日も近い。