昨年の今頃、来年のGWは思いっきり楽しむぞ~! などと思っていたのだが、私の生活拠点である大阪~兵庫は、今年のGWも緊急事態宣言下で迎えることになってしまった。2年連続で、この時季に出掛けることができないことは恨めしいが、気持ちを切り替えて、移ろう自然が届けてくれる季節の味を、家にこもって楽しむことにしよう、と思う。
長寿、無病息災の願いを込めて
立春から数えて八十八日目、5月1日は「八十八夜」、新茶の季節である。
春の気をたっぷりと受けて育った新茶は生命力に溢れている。「長寿のお茶」といわれ、飲むと「無病息災」でいられるという縁起物だ。
昔からお茶には効能があるとされ、1191(建久2)年、宋から茶種と製茶技術を持ち帰った臨済宗の開祖・栄西は、後に記した『喫茶養生記』(1214<建保2>年)の中で、「茶は養生の仙薬、延齢の妙術なり」と説いている。現在のような時にこそ、「ガブ飲み」とまでは言わないが、日々喫したいものである。
新緑の森の中で深呼吸をした時のような青く清々しい香りと、淡い甘み、ほの渋さが魅力の、この時季だけの味わい。幼い頃からお茶好きの私は、毎年、新茶を楽しみにしている。
新茶のお茶請けにはお寿司がいい
一般的に新茶のお茶請けの王道は和菓子であるが、食事とも楽しみたいので、私はお寿司と味わうことが多い。お寿司といっても握り寿司ではなく、大阪寿司と呼ばれる箱寿司や茶巾寿司、巻寿司、太巻など、生魚の脂っこさの無い味わいが合う。
他にも、普段寿司屋であまり注文することはないが、きゅうりを巻いた細巻・カッパ巻はなかなか相性が良いと思う。きゅうりや白瓜、メロンなどウリ科の青果は、爽やかな青い香りを持っているので、同じ青い香の新茶によく合うのだろう。色合いも緑で、新茶にふさわしい。
この新茶とカッパ巻コンビを肯定するような文章を見つけた。『すし物語』(宮尾しげを/講談社学術文庫)によれば、「カッパ巻、うり巻、お新香巻は、あい(間)に食べる。お茶請け代わりの寿司であるから一本を八つに切る。切り口を天地にして出すのが定法である」とある。同書によれば、「カッパ巻」は東京での呼び名で、大阪では「きゅうり巻」と呼ぶとある。
明治期に生まれた鉄火巻にヒントを得て、1929(昭和4)年に、大阪の寿司屋の主人が考案したそうで、その家の前には「元祖きうり巻」の碑が建っているという。今は大阪でも「カッパ巻」と言う人の方が多いように思うが、きゅうりと何かを巻く時は、「きゅうり」となるので頷ける。穴子ときゅうりの細巻を「あなきゅう」、鰻ときゅうりなら「うなきゅう」、いかときゅうりで「いかきゅう」、鉄火ときゅうりで「てっきゅう」と呼ぶのは面白い。「カッパ巻」という名前の由来は、きゅうりは河童の好物であるから、きゅうりのヘタを落とすと河童の頭に似ているから、など諸説あって楽しい。
つい、カッパ巻の話が長くなったが、今年の八十八夜も、家ごもりで新茶を楽しむことになる。ならば、お茶請け寿司も家で作ってみようと思う。箱寿司や茶巾寿司、巻寿司を作るとなれば手間であるが、カッパ巻なら簡単だし、手巻き寿司スタイルにするならなおさらである。いやしかし、細巻好きの私、「せっかくすし飯を作るのに、カッパ巻だけかよ?」となるに決まっている。
きっと、「あなきゅう」、「いかきゅう」のきゅうりの友に、「奈良巻」(奈良漬を巻いたもの)、「ギョク巻」「ガリ巻」「かんぴょう巻」と、新茶お茶請けメンバーが増えそう、なのである。
<新茶の淹れ方>
(1)沸騰させたお湯を湯呑みに入れて湯ざましをする。新茶の青い香りが飛ばないよう、お湯はあまり冷まし過ぎないように。急須にもお湯を入れて温めておく。
(2)空にした急須に、茶葉と(1)を入れ、蓋をして1~2分程蒸らし、湯呑みにゆっくりと注ぐ(蒸らす時間はお好みで)。この時、お茶の旨みが凝縮しているとされる最後の一滴まで注ぎきる。
(3)まずは黄金色の水色(すいしょく)と芳しい青い香を愛でて、淡い甘みとほのかな渋みをゆったりと味わいたい。
歳時記×食文化研究所
北野 智子
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