【歴メシを愉しむ(60)】
続 毒消しライフ~ラストサムライと実山椒

カテゴリー:食情報 投稿日:2020.06.15

梅雨入りとなり、毎日が蒸し暑く、マスク装着の顔面には滝の汗…というわけで、今回は爽やかな青い香りと辛さが気分を爽快にしてくれる、山椒の実で毒消しライフ堪能といこう。

 

小粒でピリリ…山椒な人になりたい

古くから山野に自生する山椒は、葉や実に特有の香りと辛みがある日本の代表的な香辛野菜。若芽を「木の芽」、4~5月頃の花を「花山椒」、6月頃の青い実を「実山椒」、秋になり赤く熟してはぜたものを「割山椒」と呼ぶ。今は「実山椒」の時季を迎えているが、鮮やかな緑色をしていることから「青山椒」とも呼ばれる。清々しい香り、ほのかな苦みと特有の辛みが食欲を増進してくれる、昔から日本人が愛する毒消し食材である。漢方では「蜀椒(しょくしょう)」と呼ばれ、健胃や整腸、回虫駆除の薬に用いられてきたという。

今ではあまり言われないことわざだが、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」とある。山椒の実は小さくてもとても辛いことから、身体は小さくても、気性や才能が鋭くすぐれていて侮れない人のことで、私もそんな“山椒な人”になりたいものだ。

 

関西人は親子丼にも山椒をかける

山椒の活躍シーンとしてすぐに思い浮かぶのが、土用の丑の鰻にかける粉山椒。鰻と山椒の仲は切っても切れず、抜群のコンビネーションだ。山椒は食欲増進だけでなく、酷暑のために胃腸が弱っているので、脂っこい鰻を食べる時の消化を促進してくれるのも嬉しく、鰻に欠かせない相方である。

もう一つ、関西人(特に京都や大阪)にとって粉山椒が欠かせない丼ものがある。それは「親子丼」だ。私の母は京都人なので、子どもの時から、親子丼には山椒をかけて食べるのが普通であった。大人になって他の地方で親子丼に山椒をかけて食べていたら驚かれたことが何度もあった。東京の友人に、「山椒が無い時は七味をかけるの?」と訊かれたので、「いや、それはちゃう(違う)。山椒が無かったら何もかけへん」ときっぱりと答えたものだ。山椒はかしわ(鶏肉のこと)の脂のコクとトロリ玉子の織り成す甘辛い世界に、ピリリッと芳香とほの苦みのスマッシュを放ってくれるのだ。

 

豊臣秀吉も愛でた兵庫県の山椒

木にトゲがなく、実が大粒で柑橘系の香りが高く、鮮やかなグリーンが特長の名高い朝倉山椒は、兵庫県養父(やぶ)市八鹿町朝倉が発祥の地。養父市観光協会HPによると、朝倉山椒は400年の歴史があり、白湯に焦がした山椒を入れて飲んだ豊臣秀吉が、「風流」だと喜んだとか、生野奉行が徳川家康に献上した、大名が特別に献上する高級贈答品として珍重されたなど、様々な謂われが紹介されている。

猟師見習いの銃猟見学で、養父市八鹿町には何度か訪れたものの、あいにく猟期は冬なので、山中で朝倉山椒にお目にかかれなかったのが残念である。つい先日、地元の猟仲間から、朝倉山椒の収穫便りが写真と共にLINEで送られてきたが、目に染み入るような美しいグリーンの色で、香りまで漂ってくるようであった。

 

ラストサムライと山椒の丸薬

ずい分前になるが、トム・クルーズと渡辺謙主演の映画『ラストサムライ』に感動し、ロケ地になった姫路市の書寫山圓教寺(しょしゃざんえんきょうじ)へ出かけた。天台宗の修行道場として966年(康保3)に開かれた圓教寺は、西国三十三霊場・二十七番札所であり、西の比叡山ともいわれている。

山間に建つ壮大なお堂が並ぶ寺を拝観した後立ち寄った、境内の休み茶屋で実山椒煮が売られていた。鰻丼、親子丼はもちろん、ちりめんじゃこ煮、鱧の照り焼き、煮穴子など、山椒の相方料理が大好きな私、早速お土産に買って帰ったところ、その美味しさに感動したことを覚えている。

以来、映画『ラストサムライ』と実山椒が結びついてしまったのだが、もう一つ別な理由がある。

イアリア人の親友が日本を楽しんで帰国する際、毎度一緒にお土産ものを買いに行く。滞在中に山椒というスパイスを初めて食べていたく気に入っていたので、「絶対イタリアにはないから、山椒をお土産に」と勧めると、実山椒煮と粉山椒の瓶を手にとった彼女が、「見て、山椒はジャパニーズ・スパイスっていうのね!」と言った後、「昔の忍者はご飯代わりに、この粒を食べていたんじゃない?」と真剣な顔で問うたのだ。

ヴェネツィア東洋大学出身、日本語堪能、過去に日本滞在歴約10年、歴史、骨董、能、文楽に造詣深く、按摩さん(指圧師)の免状まで持っている彼女の発想はやはり面白い。続けて、「前に智子がお土産にくれたドライ梅干とかドライ納豆と同じチームの感じがする。何だったっけ、その時言ってた忍者の食べものの名前?」と問うので、「丸薬!」と答えたら、「そうそう!丸薬って、“丸い薬”って書くんでしょう~?山椒の粒はまさにソレね!」と言ったものである。

圓教寺の茶屋で買った山椒を食べている時、その時の会話を思い出した私は、この茶屋で休憩を取った撮影クルーの忍者好きの外国人が実山椒煮を見て、彼女と同じことを感じたのでないかと思ったのだ。さすがにトム・クルーズではないだろうが。(笑)

さて今年も、実山椒を大量に仕込んで、“丸薬”作りに励もう。

歳時記×食文化研究所

北野智子

 

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この記事を書いた人

編集部
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