いつ地震が来てもおかしくない日本列島。万一に備え役立つ非常食を確保しておきたいものです。
これからお話しするのは、日本人にとって理想的な非常食の数々。水とこれら非常食があれば、他の食品なしに何日も自分や家族が、生き延びることができるだけでなく、体と心の健康を保つこともできます。日本人が長い歴史の中で育んできたこれら保存食を「賢者の非常食」と名付け、順にご紹介します。
ノーベル賞受賞者の功績
ヨーグルトは、今から一〇〇年ほど前までは、ほとんど知られていませんでした。当時乳酸飲料を飲んだり食べたりしていたのは、中国の内モンゴルやバルカン半島の牧草民族だけで、世界の人口からいえばごくわずかな人々に過ぎなかったのです。
一〇〇年ほど前、ウクライナ生まれのイリア・メチニコフという免疫学者によって、ヨーグルトは長寿をもたらす神秘的な食べものとして世界に伝えられました。長寿の研究をしていたメチニコフは、腸の中で大腸菌が作り出す老廃(ろうはい)物質が老化の原因であるという自家中毒説をとなえ、ヨーグルトに含まれる乳酸菌の摂取を勧めたのです。
自らもブルガリアに旅行して現地のおじいさんやおばあさんが元気で畑仕事をしている ことに感激したメチニコフは、牛乳を発酵させたヨーグルトこそ、ブルガリア人を元気で 長生きさせている原因だと確信しました。メチニコフの功績で、ヨーグルトはパリ、ロンドン、ローマ、ニューヨークと広がり、世界中の人がヨーグルトを食べるようになったのです。メチニコフはその後、ノーベル賞を受賞しました。
牛乳より優秀なヨーグルト
ヨーグルトがなぜ体にいいかというと、牛乳よりもカルシウムの吸収がいいからです。 牛乳にもカルシウムが含まれていますが、単体の遊離(ゆうり)カルシウムなので、なかなか吸収できません。ヨーグルトに含まれるカルシウムは、乳酸菌のつくった乳酸と結合し、有機体(乳酸カルシウム)に姿を変えているので、圧倒的に吸収率が高くなるのです。
カルシウムが体内に入ると、栄養素の吸収率が高まります。また、ヨーグルトを食べると生きた乳酸菌が腸内に生息することで、免疫力が高くなるのです。病気の原因には、内因性のもの(がんなど)と外因性のもの(ウイルスなど)がありますが、腸が活発になることによって免疫の力が高まると、そのどちらも抑え込む働きが期待できます。(続く)
小泉武夫