【小泉武夫・食百珍】漬け物と日本人(2)

カテゴリー:漬物 投稿日:2019.03.14

 生活の知恵の宝庫

 さて、日本の漬け物には、日本人の知恵がたくさん盛り込まれている。たとえば糠漬けにしても、糠はビタミンB群の宝庫だが、脚気や体力の衰え、疲労といった症状の原因であるビタミンB群の欠乏をこの漬け物で補(おぎな)っていた。これは米を搗(つ)いて出た副産物の糠から、漬け物の風味を高めるとともに、栄養素まで経験的に摂取しようとした生活の知恵である。

 また、味噌や醬油もろみに野菜を漬けておきさえすれば、食べたいときにいつでも食べられる即席の便利さは、質素で、そのうえ食事に時間をかけたがらない日本人にぴったりの知恵であった。

 

 腸と乳酸菌のメリット

 知恵者の日本人はまた、自分たちの漬け物が、腸内で体によい働きをする微生物、とりわけ乳酸菌をその腸内で増やすのに大いに役立つものであることを、体験的に知っていた。野菜には、もともと乳酸菌がついているが、これを漬け物にすると、食塩に対して抵抗力の強い乳酸菌は、その漬け床で盛んに繁殖するのである。

 ヒトがこれを食べると、漬け物から入った乳酸菌の一部は強酸環境にある胃をくぐり抜けて腸に達し、そこに棲(す)みついて活発に増殖する。そのため腸内は、体によい乳酸菌で占められるようになり、腐敗(ふはい)菌や異常発酵菌などが腸内に侵入しても、その繁殖を抑えることができるのである。

 そのうえ、有益な乳酸菌が腸内に多くなると、彼らはそこで多種のビタミンを生合成して分泌してくれるので、腸はこれを吸収し体の働きのために役立ててきたのである。ちょうどヨーグルトや乳酸菌の生菌入り発酵乳飲料を摂取した場合の作用と同じなのだ。

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編集部
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