酢がないなんて考えられない(1)【小泉武夫・賢者の非常食(40)】

カテゴリー:食情報 投稿日:2019.01.10

 なぜ日本人は酢が好きなのか

 酢の物や寿司飯に使う酢は、酢酸を含む酸性調味料です。日本人は、大昔から酢を大切に使ってきました。その理由は、以下の4つです。

 まず、酸味を味わう国民的な嗜好のあったことが第1の理由に挙げられます。第2の理由は、酢の持つ殺菌力や防腐力を利用して、魚介を酢漬けにしたり締めたり酢洗いにしてきたことです。第3は調理上の理由で、素材の生臭さを消したり塩辛さを和らげたり、あく抜きや変色の防止などに役立てていました。

 そして第4の理由は、健康面で果たす酢の役割からです。酢は、人の体を軟らかくし、疲労を回復させ、肩こりを和らげ、消炎湿布の働きをし、動脈硬化や脳卒中の予防に役立つといわれてきました。こうした酢の効果を経験的に知っていた日本人は、積極的に食生活に酢を取り入れていたのです。

 

酢を飲むと病気にならない!?

 世界的に酢の効果が知られるようになったきっかけとして、アメリカのバーモント州に病気の人が少なく長寿の人が多いのはなぜかを調べた研究があります。バーモント州は、全米1のリンゴの産地です。春には何千万本ものリンゴの木に、受粉をさせなければなりません。そのためにバーモント州の農家が飼ったのがミツバチでした。そして、バーモント州は全米1の蜂蜜の産地にもなりました。

 リンゴからはリンゴジュースやシードル(リンゴ酒)を造りますが、シードルを酢酸菌で酸化するとリンゴ酢(アップルビネガー)ができます。このリンゴ酢を飲みやすくしようと蜂蜜を混ぜたのが「バーモント酢」で、これをバーモント州の人はたくさん飲んでいました。調査の結果は、バーモント酢の愛好者に病気が少なく、長寿が多かったのです。この研究から「TCA回路説」というものが生まれました。

 TCA回路とは、食事によって摂取した炭水化物が体内で代謝される過程で、乳酸を生じる一連の流れです。乳酸が筋肉に蓄積すると疲労を引き起こしますが、これは仕方のないことだと思われていました。ところが、この流れに酢酸が加わると、TCA回路のなかでピルビン酸が乳酸に変化せず、分解されることがわかったのです。

小泉武夫

 

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編集部
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