甘酒は夏の飲み物?
江戸時代後期の嘉永6(1853)年に、喜田川守貞という絵師が『守貞漫稿』という書物を世に出しています。内容は、当時の庶民生活や町の物売りの姿を漫画風にスケッチし、その絵に簡単な説明を加えたものです。
その中の「甘酒売り」のページには「江戸京坂では夏になると甘酒売りが市中に出てくる。1杯4文也」と書いてあります。私はこの箇所を読んだとき、どうして冬の飲み物である甘酒を夏に売るのだろうと不思議に思いました。奈良時代の『貧窮問答歌』で山上憶良が甘酒を詠んだときには、体を温める冬の飲み物でした。しかし、『守貞漫稿』では夏に売られると書いてあるのです。念のために『現代季語辞典」を調べると、驚いたことに、甘酒は今でも夏の季語だったのです。いつから甘酒が夏の飲み物になったのかはわかりませんが、おそらく『守貞漫稿』が世に出た頃からではないでしょうか。
そこで私は、『守貞漫稿』が刊行された嘉永年間のことを調べてみることにしました。すると、当時の平均寿命は約46歳であることがわかりました。これは乳幼児の死亡率が高かったのが原因ですが、それでも人生が短かったせいか、女の人はだいたい14歳ぐらいで嫁に行っていた時代です。
小泉武夫