滋賀を代表する発酵食品・熟鮓の名店「徳山鮓」へ(1)

カテゴリー:発酵食品全般 投稿日:2018.02.24

日本最古のすし

熟鮓(なれずし)を食べたことはありますか? 発酵に興味を持っている方なら、既にご存知かもしれません。熟鮓とは、魚介類を塩漬けにした後、米飯と一緒に漬け込み、乳酸発酵させた保存食。特に鮒(フナ)の熟鮓「鮒鮓」は、独特の酸味と匂いが特徴的で、それが苦手という人も多いのですが、ツウの酒飲みにとっては最高のつまみでもあります。

鮒鮓といえば、滋賀県を代表する伝統的郷土食。琵琶湖の固有種であるニゴロブナを使って作られます。歴史は古く、日本最古の“すし”とも言われます。奈良時代にはいくつかの木簡に記され、平安時代の延喜式にも、鮒鮓と思われる記述が残されています。

近江の食文化の土台である熟鮓を柱に、地元の食材を存分に活かした料理を提供する「徳山鮓」。店は滋賀県といっても車を30分も走らせれば福井県の敦賀へ着いてしまう、湖北地方の神秘的な湖、余呉湖のほとりにあります。

 

小泉先生との深い縁

余呉湖にはかつて日本発酵機構余呉研究所があり、小泉武夫先生が所長を務めていました。ご主人で料理人の徳山浩明さんは、小泉先生との運命的な出会いから、この地域の発酵文化を継承して欲しいという先生の願いを受け継ぎ、店をオープンされたそうです。今では世界中の美食家や、名だたる料理人がわざわざ訪ねてくるほどの名店となりました。発酵料理のパイオニアとして活躍の場を広げています。

大変な人気店のため、なかなか予約困難ではありますが、幸運なことに友人の誘いで訪ねることができました。ちょうど寒波到来の1月下旬。徳山鮓のある湖北地方は豪雪に見舞われ、しんしんと降り続く雪の中、やっとの思いで到着しました。

 

徳山鮓でしか味わえないメニュー

徳山鮓で出される料理は、そのほとんどが店の周囲にある山や湖で育まれてきたもの。豊かな自然の恵みを、郷土料理をベースにしつつも独創的なアレンジを加え、この場所でこの瞬間にしか味わうことのできない唯一無二の料理として提供しています。春は山菜、秋はきのこなど、季節やそのタイミングによって刻々と変わるメニュー。

徳山さんご自身が自ら山に入って山菜を摘み、湖に船を出して漁をするなどして、日々食材を探しているそうです。この日は鰻の蒸しもの、鹿肉のロースト、鯉のお造り、イノシシの燻製ハム他様々なジビエ盛り合わせ、焼きすっぽん、などが続々と登場しました。そして最初に出てきた発酵料理は鯖の熟鮓。

 

上品な旨みに悶絶!!

同じく発酵食品であるチーズ、カチョカヴァロをふんわりと削ったものが中に入っています。手前のオレンジのソースはフレッシュトマト、淡いピンク色のソースは鮒鮓を作るときに使った飯とトマトをブレンドしたソースだそうです。奥の緑は山椒の粉末。色合いがとてもきれいです。噛み締めると鯖のふくよかな旨みがほっぺたの奥にじんわりと上品に広がり、しばし目を閉じて悶絶。くさみなどは全くなく、むしろこの味と香りを口の中に封じ込めていつまでも咀嚼していたい衝動に駆られました。

空気を含んだチーズがミルキーな味わいでクッションのように優しく包み、ソースの程よく穏やかな酸味、トマトのフレッシュ感がふわりと後を追いかけます。このピンクのソースに鮒鮓の飯が入っているとは、言われなければ分からないかもしれません。ピュアな酸味の中に奥深いコクがあります。熟鮓に苦手意識を持っている人のために、スターターとして食べてもらいたいメニューとのことでしたが、ここで気持ちが一気にぐんと前のめりになります。

 

熊のしゃぶしゃぶで天女の気分

ちなみにこの日のメインは冬の間だけのご馳走、熊のしゃぶしゃぶでした。薄切りにした繊細な脂身が口の中でほろほろと儚く解けていく様は天女の羽衣のように優雅で、ぜひ一度体験していただきたい美味しさでしたが、ここでは発酵食品をご紹介せねばならないため、控えめな説明でお許しください。さて、いよいよ徳山鮓の心臓部、鮒鮓の登場です。(つづく)

お皿の右側にあるのが鮒鮓

 

徳山鮓

滋賀県長浜市余呉町川並1408

0749-86-4045

http://www.zb.ztv.ne.jp/tokuyamazushi/

 

写真・文:江澤香織

ライター。食・旅・クラフト等を中心に活動。著書「山陰旅行 クラフト+食めぐり」「青森・函館めぐり」「酔い子の旅のしおり」等。酒蔵や酒場を中心に巡るツアーやイベントも主宰。発酵マニアで各地の発酵食品の現場を訪ねることはライフワークのひとつ。

 

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この記事を書いた人

編集部
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