地元で採れた米と水で地酒を――。山口県下関市の酒造会社が地元の農協と協力して、ほぼ半世紀ぶりに地元産の米と水で造った純米吟醸酒を復活させました。酒造会社では「地元の農家と力を合わせて、『原料すべて下関産』の酒づくりに取り組んでいきたい」と話しています。
今回披露されたのは、純米吟醸「下関 Sprits 445」。下関酒造がJA下関の協力を得て、「下関地酒プロジェクト」として取り組んできました。
「関娘」などで知られる下関酒造は、1923(大正12)年、地元の農家445人が出資し、創業しました。同社の内田忠臣社長(64)によると、地元の農民が自分たちが育てた米で自分たちの酒を造ろうと会社を興したそうです。しかし、先の戦争などのため、半世紀以上、地元の酒米による酒づくりは途絶えていました。
「創業の精神にかえった酒づくりを」と考えた内田社長は、10年ほど前から地元農家に山田錦などの酒米をつくってもらえないか働きかけていたそうです。山田錦は丈が高く、実の粒が大きいため、風などで倒れやすく、栽培が難しいと言われます。それでも、JA下関の協力で、昨年、3軒の農家が計1ヘクタールで山田錦を栽培し、計画を上回る3.4トンの収穫がありました。今年2月末、下関酒造の蔵元の地下160mの地下水を使って仕込みを始め、4月4日に新酒が搾り上がりました。
口に含むと辛さを感じるものの、ふくよかな米の味とフルーティーな香りが広がる味わいに仕上がったそうです。創業にかかわった農家の数にちなんで、「下関 Spirits 445」と名付けられました。
内田社長は「酒米の産地などトレーサビリティ(履歴追跡)への関心も高まっています。下関の酒造会社として、地元の農家と力を合わせて、当社で造る日本酒はすべて下関産の米でできるようになれば」と話しています。プロジェクトの成功を受け、山田錦の作付け面積も今年は大きく増えるそうです。
「下関 Spirits 445」は720ml/1,650円(税込み)。同社や下関市内の酒店で販売されます。問い合わせは下関酒造(083-252-1877)へ。